言葉を失ったあとで
- 信田さよ子、上間陽子 著
- 筑摩書房1800円
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アダルトチルドレン、DV、依存症などの家族問題に取り組んできた臨床心理士の信田と、沖縄で若年女性の出産や風俗業従事者の社会調査を通して少女らに聞き取りをする上間。困難な人の言葉を聞き取る2人が、それぞれの来歴や手法、被害/加害をめぐる実像や問題について語り合う対談集だ。
他の暴力と違い「性暴力を受けた」と言葉にできる人は稀だという。どう「正しく」「聞く」のか。周辺の事をぽつぽつ話し、沈黙を共に過ごし、安心できてようやくポロリと出る性被害の事実。それすら「好きな人だから」と納得しようとする少女からは、被害とその周辺に関する私たちの言葉の少なさや「性的自己決定」という言葉の危うさが見える。また加害者の被害者性の扱い方をめぐる、加害者プログラムも手がける信田と否定的な上間とのやり取りは示唆に富む。
聞き取られていない言葉が無数に。「語りだそうとする人」と「聞こうする人」の存在と場を私たちはどれだけ持てているのか。(肖)
志縁のおんな もろさわようことわたしたち
河原千春 編著
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- 志縁のおんな もろさわようことわたしたち
- 河原千春 編著
- 一葉社3000円
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もろさわようこは、『おんなの歴史』や『信濃のおんな』(いずれも未来社)等の著作で、多くの女性を励ましてきた在野の女性史研究家である。もろさわのこれまでの言葉や思想の集大成が本書である。
編著者がもろさわにインタビューをして、2019年2月から信濃毎日新聞に連載した「夢に飛ぶ-もろさわようこ、94歳の青春」を基礎にした部分が彼女の歩みを物語り、最も興味深い。(編著者は本紙にも調査に来られた。)
軍国少女だった戦中を省みて、戦後は、最も恵まれない人・つらい人の立場からものを見、考えると決意。血縁や地縁でなく志への共感で結ばれた「志縁」こそが自立と連帯の基礎であるという考えを貫く。過去の代表的な論考や講演で紡いだ言葉と、各方面の識者・研究者や志縁の人々のもろさわ評も掲載。
沖縄から見た“新型コロナ”を語る「いま」も読ませる。コロナの時代に、「一人一人が自分を新しくして行く時が、歴史が新しくなる時」という言葉が身に染みる。(晶)
朝鮮料理店・産業「慰安所」と朝鮮の女性たち
高麗博物館朝鮮女性史研究会 編著
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- 朝鮮料理店・産業「慰安所」と朝鮮の女性たち
- 高麗博物館朝鮮女性史研究会 編著
- 社会評論社2500円
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日本・コリア交流のために市民が作った歴史館「高麗博物館」の朝鮮女性史研究会が編著の本書。同館の2017年企画展準備のために調査したことがきっかけで、日本の戦時体制の中で、炭鉱や土木工事現場などで、朝鮮人男性が労働動員され、男性たちを「性的に慰安する朝鮮人女性たちが集められた施設」と定義した産業「慰安所」について研究しまとめた。
北海道、福岡など各地をフィールドワークし、証言などを集めた。産業「慰安所」は、朝鮮人集住地域の朝鮮料理店から変化した事例が多かったという。
日本軍「慰安婦」と同様、国策によって多くが「働き口がある」などとだまされたり、人身売買で連れてこられ、性を搾取された朝鮮の女性たち。編著者たちが必死で集めた資料や証言から、自由のない性奴隷的生活の過酷さがにじみ出る。
現代の性産業、性搾取、女性差別、民族差別の問題とつながる、産業「慰安所」という埋もれた史実に光を当てた貴重な本だ。(り)