あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?
松岡宗嗣 著
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あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?
- 松岡宗嗣 著
- 柏書房1800円
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「アウティング」とは、「本人の性のあり方を同意なく第三者に暴露すること」。2015年、友人によるアウティングを苦に、一橋大学大学院生のゲイ男性が転落死した。ゲイであることをオープンにし執筆等をする著者が、「彼は私だったかもしれない」との思いから、アウティング問題の本質に切り込む。
著者が事例を基に強調するのは、シスジェンダー(生来割り当ての性別に違和のない人)の性別二元論・異性愛主義が強固なこの社会で、アウティングは、善意であっても被害者の命をも左右する危険な行為であること、そして一橋大学事件裁判の判決が示したようにプライバシー権の侵害だということ。事件後、条例やパワハラ防止法で規制され、国立市の条例では「カミングアウトの自由」も謳った。
「多様性」「共生」実現のための方策や心構えが満載。さらに防疫やネット上の個人情報収集の危険性も指摘。著者が自らの立場の“特権”に自覚的で、今後の議論にも開かれている。(博)
私は男でフェミニストです
チェ・スンボム 著 金みんじょん 訳
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- 私は男でフェミニストです
- チェ・スンボム 著 金みんじょん 訳
- 世界思想社1700円
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好奇心から読んだ本書は、文体も内容もおもしろく一気読みした。着せ替え紙人形の洋服を作ることが好きだったという著者が、「男になる」努力をさせられる社会に違和感を持ちながらも、周りの価値観に合わせた過去や、さまざまな抑圧に耐えた母親の人生を見つめ直し、自責の念を吐露する場面に共感する。フェミニズムと出合った国語教師の著者は、文学作品などを使い、工夫を重ねながら勤務校(現在は男子校)でフェミニズム教育を実践しているらしい!!
韓国は日本同様、家父長制的価値観が強く、ジェンダーギャップ指数が低い分野もある。しかし、ジェンダーに関わる法改正が数々あり、フェミニズムへの関心が高く、関連本は爆発的に売れている。
「女の話は聞かない」男には男性からの啓発が有効との思いから、本書のような男性向けのフェミニズム入門書が出版される韓国はやはりうらやましい。巻末の読書案内もいい。フェミニズムは全ての人に必要なのだ。(ぱ)
冤罪をほどく “供述弱者”とは誰か
中日新聞編集局、秦融 著
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- 冤罪をほどく “供述弱者”とは誰か
- 中日新聞編集局、秦融 著
- 風媒社1800円
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始まりは支局記者の気がかりだった。2016年、中日新聞デスクの秦は、殺人罪で服役中の西山美香さんが両親にあてた「私は殺ろしていません(原文ママ)」と訴える350通余りの手紙の存在を聞き、取材班を組み調査を始める。西山さんは、入院患者の人工呼吸器を外して殺害したとされ殺人罪で懲役12年の刑で服役、出所まであと1年の時だった。担当刑事による脅迫と誘導があったと同時に、西山さんの発達障害が疑われた。グレーゾーンにある人たちが供述弱者となる構図も明らかになる。
調査と報道は再審への道を併走、19年には再審が確定、翌年3月に再審無罪となった。逮捕から15年5カ月目だった。
冤罪事件は捜査機関が作りだし、裁判所が認めてしまうことによる悲劇であり、マスコミの加担も否定できないと著者は書く。パワハラとセクハラの上に作られた、嘘の調書に平然と依拠する構造が心底恐ろしい。西山さんは20年12月に国家賠償請求訴訟を提訴、国は争う姿勢だ。(き)