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ふぇみんの書評

水俣病事件を旅する

遠藤邦夫 著

    水俣病事件を旅する
  • 遠藤邦夫 著
  • 国書刊行会2300円
水俣病の被害者のすさまじい受難は、多くの人たちによって伝えられてきた。健康被害にとどまらず、「心の破壊」「被害者への差別偏見」「コミュニティの崩壊」などが複雑に絡み合って今も人々を苦しめ、地域に亀裂を生じていることを、「水俣病センター相思社」で30年以上職員を続けてきた著者は事例を挙げて丁寧に伝えている。それが、水俣病事件という公害事件なのだ。  1956年に水俣病が公式認定されてからは、被害者と加害者の二項対立が主要だったが、90年代以降はそれが患者補償と地域再生の両立という課題になって浮かび上がってきている。水俣病という名前こそが差別だとの地域の声、忘れたい、なかったことにしたい人たちの声も聞いてきた著者が考える、「もやい直し」とは? 市民ができること、被害者と支援者の関係、立場や意見の違いをどう地域再生に結びつけていくのか。失敗も振り返りつつ問いかける言葉に、考えさせられることが多い。(む)

深海魚 響野湾子短歌集

響野湾子 著 池田浩士 編

  • 深海魚 響野湾子短歌集
  • 響野湾子 著 池田浩士 編
  • インパクト出版会2000円
〈上訴審棄却賜わる今朝よりは光り届かぬ深海魚となる〉  この短歌を詠んだ響野(=雅号)は強盗殺人・強盗強姦罪で死刑が求刑され、2019年に刑死した。おそらく刑務所にいる間に学びの機会を得て短歌を詠み始めたのではと、編者は推測する。彼が詠んだ6千余首の中から、編者が912首を選んで本書が編まれた。  「死刑廃止のための大道寺幸子基金」による「死刑囚表現展」に、06年から響野が短歌を送ってきたことで、表現展の選考委員をする編者の目に止まった。巻末の編者によるあとがきに、経緯などが詳しい。  編者は当然、響野の凶行を冷酷無比だと捉えつつ、彼の来歴や大道寺将司死刑囚とのつながりを見つめて、冷静な選考基準を設け評価している。響野の、内側から絞り出すような表現に出合うと、誰もが「この人はいったいどんな人物か」と思うだろう。死刑制度や死刑囚とは、人間とは何かという疑問も導き出すに違いない本書を、多くの人に読んでほしい。(三)

沖縄と色川大吉

三木健 編 色川大吉ほか 著

  • 沖縄と色川大吉
  • 三木健 編 色川大吉ほか 著
  • 不二出版2300円
色川大吉さんは、常に底辺の民衆の立場に立って、現場調査や人々の声を聞き取って研究を続け、民衆が作った自主憲法の五日市憲法を発掘するなどの業績を残した異色の歴史家だ。また、「日本はこれでいいのか市民連合」の共同代表を務めた社会運動家でもあった。その彼が沖縄を広く訪ね歩き、集団自決の現場では嗚咽をこらえ、森や神々の聖域を奪う開発には怒りに震えた。色川さんは、沖縄に心底からの敬意を抱いていたが、“沖縄の堕落”には「大和のマネをするな」と厳しい指摘をしている。  本書は、第1部を「沖縄への視座」として、色川さんが沖縄を論じたコラムや講演録をまとめ、第2部は「沖縄からの視座」として10人の沖縄の論者が色川論を綴った構成だ。色川さんの沖縄へのまなざしと、沖縄からの色川民衆史への発言が響き合う一冊となっている。  96年の生涯で100冊に届こうとする彼の編著書の最後の一冊となる本書が書店に並んだ昨年9月7日、色川さんはこの世を去った。(公)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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