翡翠色の海へうたう
- 深沢潮 著
- KADOKAWA1600円
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契約社員で家族とも不仲の「私」と、戦時中「穴」にされ続けた「わたし」…。小説家を目指す河合葉奈は、応援するK-POPアイドルの投稿が、元日本軍「慰安婦」女性や虐待被害者を支援するブランドを着ていたことが原因で炎上したと聞き、書くべきテーマを見つけ、「慰安所」があった沖縄に飛ぶ。が、自分に書く権利があるのだろかと悩む…。現在と過去の2人の女性が、「私」と「わたし」の語りで交互に進む小説だ。
ドラマチックな物語にぐいぐい引き込まれ、一気に読んだが、内容がずしりと重い。
日本軍「慰安婦」、性暴力、沖縄戦、差別、非正規雇用、ジェンダー問題などが立ち現れる。元日本軍「慰安婦」の「わたし」が凌辱される場面の描写は胸がつぶれるほどすさまじい。現在の問題は過去から地続きなのだと否応なく感じさせる。
「慰安婦」に関する資料を読むことも、被害者の証言を聞くことも本当に重要。だが、小説が発する強い力に感動する。(よ)
移民・難民に非情な日本の政策、入管施設での人権侵害を報道では知るけれど、ほんとうはどんなことが起きているのだろうか…。著者は入管法改定問題に関心を持って当事者や弁護士など関係者に入念な取材をし、対外的に発言も繰り返してきた。そして書き上げたのがこの小説。
語り手はマヤ。マヤの母・ミユキさんは一人親で保育士だ。3.11
後の被災地支援をする中で、スリランカ人のクマさんと知り合う。ミユキさんの恋人になったクマさんだったが、在留資格が途切れて、入管に収容されてしまう(職務質問した警察のやり方には腹が立つ!)。クマさんの絶望的気持ちと、助けだそうと奔走するミユキさんたち家族の物語に胸が塞がる。
ミユキさんとクマさん、マヤの祖母とクマさん、マヤと男友だちの間の何気ない日常と、過酷な入管制度や裁判の対比が、この問題を際立たせる。愛する人や家族との営みにさえ口を挟む排他的制度を、放置していいわけがない。(三)
暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ
堀川惠子 著
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- 暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ
- 堀川惠子 著
- 講談社1900円
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死刑やヒロシマに向き合ってきた著者。「なぜ広島に原爆が投下されたのか」を探る中、「重要な軍隊の乗船基地」=広島市宇品に行き当たる。大佛次郎賞受賞の本書は宇品に置かれた陸軍船舶司令部(暁部隊)を舞台に、「船舶の神」と呼ばれた田尻昌次司令官らの苦闘を、未公開資料発掘など精力的かつ丹念な取材で克明に描き出し、先の戦争での日本軍の致命的な欠陥を詳らかにした。
上陸作戦には兵士、糧秣、軍事品を船で迅速に輸送することが必須。島国で資源に乏しい日本では兵站は最重要課題だが、軍内部の関心は一貫して薄かった。兵站の重要性を訴え改革をした田尻司令官は、戦域拡大の方針に「意見具申」するも、上層部は統計を偽造し「ナントカナル」と、「南進」「対英米戦」へ。そして多くの兵士と民間船員を餓死、 ”特攻”へと追いやる-。
スリリングでぐいぐいと読ませる筆致。日本軍の欠陥が原発やコロナの政府対応にも共通するところが、ひたすらに恐ろしい。(君)