私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩
李玟萱 著 橋本恭子 訳
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私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩
- 李玟萱 著 橋本恭子 訳
- 白水社2300円
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本書の大部分は、台湾のホームレス(だった)当事者10人と彼らを支えるソーシャルワーカーたちのライフストーリー。簡単に騙されるほどのお人好し、困っている人や動物を助けるやさしい人々が、ホームレスになってしまうまでの半生を繊細に追い、支援者の苦労や喜びなどを丁寧にすくい取るルポは読み応えがあった。出版に関わる賞を受賞し、台湾で高く評価されているのもうなずける。
ホームレスになるきっかけは、会社の倒産、借金、薬物、酒、ギャンブル、病気など…日本の事情とほぼ変わらないが、歴史・地理的状況が絡む台湾社会の複雑な事情
も垣間見えた。ホームレスが支援者との信頼関係の中で再生する可能性が高いことがよくわかる。女性ホームレスの支援団体、当事者による街ガイドなどの事業、公的機関や民間団体のサービスなどが多々紹介され、生きる上で必要なものを深く考えさせられた。(く)
- 壊れた魂
- アキラ・ミズバヤシ 著 水林章 訳
- みすず書房3600円
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国家に抗し自由を守ろうとした人々の魂を宝物のようにそっと描いた小説。冒頭の舞台は1938年1月、東京・渋谷。身を隠した洋箪笥の鍵穴から、少年は見た。兵士が父を殴り倒し、バイオリンを踏みつけるさまを。その部屋で父は、中国人留学生たちと弦楽四重奏曲を練習していた。「狂ったように戦争に邁進する」「暴力に満ちた醜い世界」を嫌悪し、自由と平等の理想を少年に教えた父。
災禍を生きのびた少年は、バイオリンの修復を願って熟練したバイオリン職人となるが、ふとした出会いから、過去の謎が少しずつ明かされていく。父の魂とバイオリンの魂柱が破壊された「その日」に何があったのか?
フランス文学者の著者は本書をフランスで出版後、自ら訳して日本語版を発表した。
失われたバイオリン、そして失われた過去を、人と人とのつながりによって取り戻す物語である。歴史やミステリー、バイオリンが好きな人は、ページを繰る手を止めることができないだろう。(雪)
「八月ジャーナリズム」と戦後日本 戦争の記憶はどう作られてきたのか
米倉律 著
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- 「八月ジャーナリズム」と戦後日本 戦争の記憶はどう作られてきたのか
- 米倉律 著
- 花伝社 発行 共栄書房 発売 2000円
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8月の原爆や戦争をテーマにした集中的報道は、「八月ジャーナリズム」と揶揄されがちだ。
著者は、TVが戦争をどう伝え、人々の歴史観や歴史認識にどう影響を与えたかという問題意識で、戦後の膨大な戦争関連番組を10年ごとに区切り傾向を分析する。番組は、長く「受難(被害・犠牲)の語り」が中心だった。1970年前後、ベトナム戦争や日中国交回復を契機に加害責任に関する番組が作られ始め、90年代には被害者の視点から脱した番組制作が本格的になるが、歴史修正主義などにより、その姿勢は後退した。
だが、「八月ジャーナリズム」が積み上げてきたものは、貴重な社会的資源であり、被害や犠牲を扱った番組の放送は、日本独自の「反核・平和思想の形成」に意味があったと著者は評価する。そして、次世代への継承は、ネットでは個別の関心に偏りがちであり、TVがその役割を担うべきだと指摘する。(き)