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ふぇみんの書評

佐多稲子 政治とジェンダーのはざまで

小林裕子 著

    佐多稲子 政治とジェンダーのはざまで
  • 小林裕子 著
  • 翰林書房3800円
 本書は「私にとっては一生をかけるに足る魅力が佐多稲子の人と文学にあった」と述べる著者の、2冊目の佐多稲子研究書。佐多は、長く婦人民主クラブの委員長を務めた。  「佐多稲子小伝 他者という鏡」で、佐多の作家としての歩みを概括し、次に各時代の作品を丁寧に分析する。まず小説以前に書かれた詩を取り上げる。佐多は自分と、他人の目を通した自分との乖離を強く意識し、内奥からの声を「語り手」に表現させる。これが後の小説にも生かされ、プロレタリア文学の政治性や共産党の方針を是とする意識と、生活感覚や身体的な感覚等からくる意識との間にある違和感を、人間や社会認識を深めながら描くことにつながる。  多くの作品分析から、プロレタリア文学運動により階級意識に目覚めた佐多が、ジェンダーの問題に気づく過程が浮かび上がる。「佐多文学は何回読み直しても新しい発見があり、人間の奥深さへの感動がある」に共感した。(晶)

赤い魚の夫婦

グアダルーペ・ネッテル 著 宇野和美 訳

  • 赤い魚の夫婦
  • グアダルーペ・ネッテル 著 宇野和美 訳
  • 現代書館2000円
気鋭のメキシコ人女性作家による話題作の翻訳が出版された。表題作ほか5編の短編小説それぞれに、何かしら生きものが潜む。小さな鉢で飼われる赤い魚3尾、体中に宿る菌、猫やゴキブリや大きなヘビが、作中で存在感を発する。  登場人物の中心は、静かに思いをたぎらせる女性たち。予期せぬ妊娠や出産、生と死、駆け引きや出奔が意表を突くように描かれる。女性バイオリニストと男性指揮者が主人公の「菌類」は、2人の感情の大きな揺れが興味深い。狂おしい欲情と、足指や粘膜に生息する菌の描写には、罪悪感と充足に満ちた不思議な感覚が広がった。  全編に女性と仕事、階層と格差、妊娠に関する夫の当事者性のなさなどフェミニズム的テーマがある。登場人物たちを描く、細かな心理や行動描写にどんな意味が持たされているのかと、頭の中で想像が駆け巡る。心の襞のどこかに刺さり、引っ掛かり、忘れられない印象を残した。著者の他の作品の翻訳が待ち遠しい。(三)

スピットボーイのルール 人種・階級・女性のパンク

ミシェル・クルーズ・ゴンザレス 著 鈴木智士 訳

  • スピットボーイのルール 人種・階級・女性のパンク
  • ミシェル・クルーズ・ゴンザレス 著 鈴木智士 訳
  • Gray Window Press1700円
1990年代のフェミニズムとパンク音楽、政治のムーブメント「ライオット・ガール」はよく知られるが、本書は同時期に活動し、「ライオット・ガール」とは一線を画していた、メンバー全員女性のフェミニスト・ハードコア・パンク・バンド「Spitboy(スピットボーイ)」のドラマーによる回想記。  ミドルクラス白人男性が支配的なパンク界で、男からの蔑みや誹謗、支配を撥ねのけながら、いかに女の物語を、声を、叫びを歌い上げるのか-。彼女たちの格闘と大切に育んだシスターフッドに、曲と同様、腹の底から熱くなる。一方著者は公的扶助を受け、シングルマザーに育てられた「チカーノ(メキシコ系アメリカ人女性)」。「複合差別」の概念がない時代、パンク界でもバンド内でも抱える疎外感が描かれる。日本の女性パンクのERIKOの解説も秀逸で、「(著者は)個人の主体性を、本当の歩き方を教えてくれた」と。音楽をやっていなくても、著者のたたかいに胸が熱くなるはず。(戦)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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