憲法を生きる人びと
- 田中伸尚 著
- 緑風出版2400円
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きっちり10人、男女半々の闘いの物語だ。生まれ育った場所に拘って暮らす人、縁あってたどり着いた場所で自分の生を貫く人。一人一人の真摯な生き方が清々しい。著者があとがきに記したように、世代も生活や仕事も違う人々の「生の襞に目を凝らし、射程を伸ばすと、植民地支配をふくめた日本が行なった戦争が立ち上がってくる」「戦争は過ぎ去らず、その影はじつに長く、濃い」。戦争孤児の歴史を紡ぐ人、「免職」の脅かしの中「日の丸君が代」強制に抗う教員、在日「朝鮮」籍の人、沖縄の織物に魅せられ移住、「平和ガイド」としての生き方を選んだ女性、父の侵略責任と自身の戦争戦後体験から「平和ミュージアム」を作った女性…。
自民党「改憲草案」が出され、もはや風前の灯にも思える憲法だが、本の中では民衆の中に根を下ろした憲法の力強さに感動を覚える。誕生から75年、我らの憲法は政治の力に簡単に翻弄されるほどやわではないのだ。(の)
男の子になりたかった女の子になりたかった女の子
松田青子 著
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- 男の子になりたかった女の子になりたかった女の子
- 松田青子 著
- 中央公論新社1500円
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翻訳家でもある著者が、ユーモア漂う筆致で織りなす、フェミニズムに貫かれた11の短編集。
おとぎ話のようなテイストのものも含め、「日常」という穏やかな響きにすでに埋め込まれている、女の生きづらさの数々(女性蔑視、ジェンダー役割、非正規労働、生理の鬱陶しさ、DV、ワンオペ育児、コロナ禍!)に、不思議な時空に通じる裂け目を入れるかのような展開が小気味いい。ブルマを想像上のハサミで切り裂いたり(「許さない日」)、女性蔑視への復讐として赤いアイシャドウを塗ったり(「桑原さんの赤色」)、魚がはねる小川のような自分の生理に感嘆したり(「この世で一番退屈な赤」)…。中でも団地を舞台に向かい合う部屋に住む20代と40代の女性が、緩やかにつながりながら自らの足で立つ「向かい合わせの二つの部屋」が好きだ。
ふわふわと著者の世界に誘われるうちに、とんでもない魔力とエネルギーを注入されていることに気づいてしまう。(博)
命を落とした七つの羽根 カナダ先住民とレイシズム、死、そして「真実」
タニヤ・タラガ 著 村上佳代 訳
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- 命を落とした七つの羽根 カナダ先住民とレイシズム、死、そして「真実」
- タニヤ・タラガ 著 村上佳代 訳
- 青土社2700円
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移民受け入れ先進国と信じていたカナダだが、実は先住民族への根深い差別や暴力が今も蔓延している。本書は、先住民ルーツを持つジャーナリストが、オンタリオ州で2000年以降7人の子どもが不審死したことを家族や地域住民に取材し、世に出した問題作。
カナダは19世紀から白人が入植地を広げる一方、先住民族は土地を奪われ、清潔な水も手に入らない荒れた地へ移住させられた。子どもたちは保護者の下を離れて、都会の寄宿学校へ強制的に送り込まれた。そして不慣れな生活の中、孤立し、酒や薬物に溺れ、犯罪に巻き込まれる。事件が起きても、警察や司法は動かず、「価値がない犠牲者」扱いに終始した。
読み進めると、これでもかというほどの無理解・無関心に暗澹たる気持ちになる。しかし変化への足がかりをつくる人々の登場や、本書が17年に出版されるとベストセラーになったことには希望の光も見える。登場するヘイトクライムに、自分の足下も考える。(三)