ヘイトをとめるレッスン
ホン・ソンス 著 たなともこ、相沙希子 訳
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ヘイトをとめるレッスン
- ホン・ソンス 著 たなともこ、相沙希子 訳
- ころから2200円
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本書は、ヘイト表現とは何か、なぜそれが深刻な問題になるのかを、韓国の具体例を示し、日本や欧米の現象、歴史を含めて考察している。著者は、自身を男性、正規職、非障がい者、異性愛者の“韓国のマジョリティ”と断った上で、マイノリティの人々の話に耳を傾けながらヘイトを考え、研究してきたという。真摯で温かい語り、わかりやすい解説がいい。
「ヘイト」は、日本のレイシストたちが行っているような外国人に対するヘイトスピーチだけでなく、女性や性的マイノリティなどに対してもある。「表現の自由」の問題や、刑事罰を含めた法的規制のメリット・デメリットを丁寧に論じ、差別禁止法の制定など、国家や社会による規制の必要性、カウンター運動などの対抗運動や、問題を喚起し連帯を導く対抗表現、教育などの有効性を説く。女性蔑視など、韓国の社会と似ている部分が多い日本にとって、参考になることがたくさんある。反ヘイトの希望の書と感じた。(ゆ)
ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生
笛美 著
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- ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生
- 笛美 著
- 亜紀書房1400円
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本紙新年号に寄稿、2020年にTwitterで「#検察庁法改正に抗議します」を作り廃案への世論をリードした著者は、広告業界で働く高収入バリキャリ…だった。「子宮でいいコピーを考えろ」と言われ、妻が家事育児を担う男と競争し時に立てて激務をこなしても、結婚・出産していないと欠陥品扱い。高収入を隠して婚活に勤しむも失敗…そのうち「生きていてごめんなさい」の気分に。
しかしF国への赴任を機にフェミニズムに出合い、会社の政治の「おじさん社会」に気づき、ついに勤めの傍ら反撃=声を上げる、までの凸凹の道のりが軽快なタッチで描かれる。
すり込まれた女性蔑視や迷いも含め「おじさん社会」に生きる女の「運命」を見据える力強さ、時に広告手法を使った自分らしい声の上げ方、気づきを得た後の豊かな出会い、人間らしい生き方・働き方の模索…著者の言葉と実践にどこまでも力を得る。どんな立場の女性にも贈りたい。みんな「おじさん社会」の被害者だから。(肖)
フェスとデモを進化させる 「音楽に政治を持ち込むな」ってなんだ!?
大久保青志 著
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- フェスとデモを進化させる 「音楽に政治を持ち込むな」ってなんだ!?
- 大久保青志 著
- イースト・プレス1700円
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東京周辺のデモやフェスに行く人だったら、脱原発パレードや国会前集会で大久保青志とすれ違っているはずだ。そうでなくても、彼が関わった「アトミック・カフェ」や東京・有明の憲法集会には参加しているのじゃないだろうか。著者は、洋楽誌「ロッキング・オン」の創刊に関わり、内田裕也マネジャー、土井たか子市民秘書を務め、さらに自身も都議会議員を経験するなど、まさに音楽と政治を行き来してきた。本書は、著者の自伝の形を取りながら、彼が音楽と市民運動を紡ぎ、織り、縫い合わせてきた市民史の記録ともなっている。
前半は「音楽とフェスに社会的メッセージを」持ち込んだ記録で、後半は逆に「デモと政治をフェス化する」面白さを語る。ジャーナリストの津田大介との対談も示唆に富む。2020年に、環境省が小泉進次郎大臣をフジロックに出演させてくれと依頼してきた。大久保なら権力はごめんと一蹴だろう。結局中止となったが、権力の目ざとさに考えさせられた。(公)