オリンピック 反対する側の論理
ジュールズ・ボイコフ 著 井谷聡子、鵜飼哲ほか 監訳
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オリンピック 反対する側の論理 東京・パリ・ロスをつなぐ世界の反対運動
- ジュールズ・ボイコフ 著 井谷聡子、鵜飼哲ほか 監訳
- 作品社2700円
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森喜朗五輪組織委前会長の女性差別発言を米国の五輪放映権を持つNBCwebニュースで批判、森氏辞任に大きな影響を及ぼしたと言われる著者。日本のメディアにもたびたび登場する注目の批判的五輪研究者だ。元プロサッカー選手で五輪選手だった彼は、スポーツを愛し、故に五輪のもたらす資本主義的な暴力を徹底的に暴く。
2年前に来日し、開催1年前企画の「国際反五輪サミット」の1週間を国内外のアクティビストらと共にした。本書は、資金を集め18人の若者を日本に送ったNOlympics LAを中心に、世界中で展開される近年の反五輪運動を紹介し、その正当性と社会を変える可能性に希望をみる。著者は五輪というメガ・イベントがやってくる街で何が起こるかを取材し、市民視点で理解する。来日時には福島へも足を運び、記者会見で「一番心に残ったのは福島の人々の生の言葉」と語った。「オリンピック廃止」を求めるトランスナショナルな運動は、今その真価を発揮する。(の)
ひきこもり図書館 部屋から出られない人のための12の物語
頭木弘樹 編
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- ひきこもり図書館 部屋から出られない人のための12の物語力
- 頭木弘樹 編
- 毎日新聞出版1600円
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『絶望図書館』など、同じ編者のアンソロジーが何冊か出ているが、本書は“ひきこもり”をテーマに編まれた。鬼退治に行かない桃太郎の民話や、「感覚遮断実験」を扱った萩尾望都の「スロー・ダウン」など、今回も国内外のバラエティーに富んだ短編小説や漫画が収録され、大いに期待した。
韓国の作家ハン・ガンの「私の女の実」(初訳)は男女の描写の斬新さに唸り、SF作家梶尾真治の「フランケンシュタインの方程式」は爆笑しながら読んだ。そして、編者のあとがきと解説には深い味わいがあり、今回も読書の楽しみ方を教えてもらった。アンソロジーには、読んだことがない作家と出会える楽しみがある。
コロナ禍で、ひきこもらざるをえない人が増えたかもしれない。苦しいひきこもりがあると思うが、「どの作品も、体験を凝縮した結晶のような素晴らしいものばかりです」という編者の言葉にわくわくしたし、本書で救われる人もきっといると思う。(ぱ)
「いろんな人がいる」が当たり前の教室に
原田真知子 著 上間陽子 解説
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- 「いろんな人がいる」が当たり前の教室に
- 原田真知子 著 上間陽子 解説
- 高文研2300円
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学校にはいろいろなことがある。暴言や暴力、予測不能な行動、セクハラ、いじめ、学級崩壊等。本書は、著者が教室で子どもの声に耳を傾け行った学級づくりの記録だ。
子どもの問題に目をこらせば、課外活動でも「強さ」を求める能力主義や、分断や排除を生む管理体制、その前提となる男性観・女性観など、大人の問題が見える。
著者の学級には仕掛けがいっぱいだ。個別や数名での話し合い、ほぼ毎日の学級通信、親同士の繋がりづくり、差別や戦争を考える教材、身近な題材のメディアリテラシー教育など。少しずつ気持ちがほぐれると、「私も被害者」「加害者だった」と子ども自身が話し始める。そして、今、世界で起きている戦争や紛争、日本による過去の加害の記憶と、学級内のいじめがつながっていく。教育とは時間も根気も膨大にかかるもの。今、学校にはこういう時間が本当に足りない。多くの大人たちに届けたい一冊。(梅)