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ふぇみんの書評

オリンピックという名の虚構 政治・教育・ジェンダーの視点から

ヘレン・J・レンスキー 著 井谷惠子、井谷聡子 監訳

    オリンピックという名の虚構 政治・教育・ジェンダーの視点から
  • ヘレン・J・レンスキー 著 井谷惠子、井谷聡子 監訳
  • 晃洋書房2700円
「緊急事態宣言下でも五輪は開催」「開催には犠牲が必要」…中止を求める声がどれだけ高まってもいまだ強硬姿勢のIOC。日本政府も空虚な「安心安全」を繰り返すばかりだ。著者はスポーツとジェンダー研究の第一人者で、IOCが君臨するその構造を「オリンピック産業」と名づけた。スポーツは特別なもので政治に汚染されないと言う「スポーツ例外主義」は、19世紀の植民地主義、人種差別主義、性差別主義を温存し、その中でアスリートの身体、ジェンダー、政治的行為も侵害され続けてきた。  著者は、地元トロントの五輪招致反対運動と出会い、批判的オリンピック研究の視点を獲得したと言う。本書では、1993年以後の民衆の抵抗運動、ジェンダー、セクシュアリティー、エスニシティーに基づくアスリートの権利と差別の問題を深く考察する。巨額の利益を優先し命を蔑ろにする虚構を暴き、破壊され、奪われたものの中に真実を見る真摯な態度に勇気をもらった。(の)

NO NUKES 〈ポスト3・11〉映画の力・アートの力

ミツヨ・ワダ・マルシアーノ 著

  • NO NUKES 〈ポスト3・11〉映画の力・アートの力
  • ミツヨ・ワダ・マルシアーノ 著
  • 名古屋大学出版会4500円
著者は、研究者として滞在中に東日本大震災に遭遇、その後、カナダから日本に移り、京都大学で映画・メディア研究を続けている。  本書で俎上に上がるのは、原子力PR映画の『福島の原子力』、大林宣彦の劇映画『太陽を盗んだ男』から、鎌仲ひとみの『ミツバチの羽音と地球の回転』や弁護士・河合弘之の『日本と原発』などの映像作品だ。著者は、鎌仲と河合がこれまで映画評論家や内外の映画祭で評価されてこなかったことに着目するが、この2人に共通するのは「解りやすさ」だという。作品中、鎌仲は自らのナレーションで、河合はホワイトボードを使って説明しているが、著者は、旧来のドキュメンタリー界隈で評価されなかった、この「解りやすさ」こそが、原子力への疑問を持つ人々の感性を育む、最も新しい映像の「力」ではないかと書く。これらの映像体験や作者たちとの議論から、著者が改めて確信したスタンスが本書の題名とされた。すなわちNO NUKESである。(公)

被災地のジャーナリズム 東日本大震災10年 「寄り添う」の意味を求めて

寺島英弥 著

  • 被災地のジャーナリズム 東日本大震災10年 「寄り添う」の意味を求めて
  • 寺島英弥 著
  • 明石書店2500円
著者は福島県相馬市出身で、宮城県仙台市に本社がある河北新報の記者だ(現在は定年退職)。東日本大震災後、被災地で出会った人々の縁を大切にし、同じ地に足を運んで記事を重ね、紙面に載せきれない話はブログ「余震の中で新聞をつくる」に綴ってきた。  本書では震災から10年の変容を、既出記事や読者投稿などから伝え、被災地の今をルポする。  止まらぬ人口流出、経済のひずみで滞る復興事業、地場産業空洞化、後継者や担い手の姿が見えない農業再生…。一方、震災に早く幕を引き「復興」を東京中心の五輪に置き換えようとしているのが今の政治の流れだと指摘、沖縄と原発事故に見える中央と周縁の関係にも光を当てる。  被災地の人と心と暮らしにいまだ復興は遠く、これらを継続的に伝えるローカルジャーナリストの役目に終わりはないと著者はいう。 「寄り添う」の本当の意味は、「関わったら、逃げない」ことだとの言葉を肝に銘じたい。(ね)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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