6月7日、本書の著者である俵義文が亡くなった。俵は、家永三郎が政府による教科書の国家統制を許さないと起こした教科書裁判に最初から参加し、同志として共にたたかってきた。
家永裁判の終了後、定年を待たずに退職し、「子どもと教科書ネット21」を立ち上げた。教科書問題を多くの人に広めるために、日本全国を飛び回り、検定制度の問題点や教科書に介入しようとする政権の狙いなどを熱く、わかりやすく語り続けてきた。
うそを書く教科書は許さない。教科書への権力の介入を認めない。この強い思いが俵の活動の源泉だった。歴史を改ざんする教科書を手に、「こんな教科書、子どもに渡せますか!」と訴える俵の姿が今も目に焼きついている。
本書は教科書問題に人生をかけて取り組んできた俵の遺著であり、戦前から戦後までの教科書制度、教科書や教育のあるべき姿を求めて繰り広げられた運動の記録だ。必読の書である。(平)
世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ
アリシア・ガーザ 著 人権学習コレクティブ 監訳
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- 世界を動かす変革の力 ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ
- アリシア・ガーザ 著 人権学習コレクティブ 監訳
- 明石書店2200円
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黒人の高校生がコンビニの帰りに射殺され、加害者に無罪判決が出された2013年。やり場のない怒りからアリシア・ガーザら3人の黒人女性がSNSで発信したのが「ブラック・ライブズ・マター」だ。本書には20代から活動を続けているアリシア自身の育った環境、黒人というだけで犯人扱いされ命を奪われるアメリカ社会の実態、本気で向き合おうとしない政治家たちの実像など、日本では知ることのできない深刻な事実が綴られている。というより、ぶつけられている。かつて男性で、異性愛者で、カリスマ性の高い人物が中心となって行われた黒人解放運動には変化も起きている。現在、抵抗運動のリーダーの多くは女性で、フェミニズム、LGBTQから見る視点が欠かせない。
ページが割かれている運動論も、読み応えがある。自らにも他者にも向けられた厳しい眼は、私たちも学ぶ必要がある。(室)
母性の抑圧と抵抗 ケアの倫理を通して考える戦略的母性主義
元橋利恵 著
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- 母性の抑圧と抵抗 ケアの倫理を通して考える戦略的母性主義
- 元橋利恵 著
- 晃洋書房3900円
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子育て支援の領域で「孤育て」がキーワードになって久しい。本書は前半で、新自由主義的な潮流の中、産み育てが「(女の)自己責任」と化し、母親たちが孤立を深め過酷な状況に陥っていることを分析。後半では主に「安保関連法に反対するママの会」の活動やメンバーの語りを通して、子育てというケア経験(母親業)から抑圧に抵抗できないかと考察、さらに戦略的本質主義を援用した「戦略的母性主義」の可能性を模索する。
しかし、子をもった女性が抵抗の武器として「母性」「ママ」(という語またはイメージ)を用いる―戦略という自覚の有無に関わらず―ことは、「母」以外の人の「子との関わり経験」を排除することになるのではないか。これはリブの“妹“世代である私の見解で、著者と同世代(30代)の人には別の見方もあるだろう。まずはフェミズムにとって根深い課題である「母性」に果敢に挑んだ著者にエールを送り、世代間の母性の解釈・意味づけの差を考えるきっかけとしたい。(R)