日本の医療崩壊をくい止める 「コロナ禍の医療現場」からの警鐘と提言
本田宏、和田秀子 著
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日本の医療崩壊をくい止める 「コロナ禍の医療現場」からの警鐘と提言
- 本田宏、和田秀子 著
- 泉町書房1900円
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コロナ前から日本の医療体制は逼迫していた。長年、医師不足の解消などを訴えてきた医師(本田)と、「ままれぼ出版局」の代表で、原発、医療問題などを執筆するライター(和田)が、日本の医療と福祉のあり方に警鐘を鳴らす。
医師の過重労働、保健所の削減、病院の統廃合、効率が悪いとされる小児科の切り捨てなど、さまざまな問題はコロナ禍でより深刻になり可視化された。受け入れ病院を探し救急車はたらい回し、介護施設では「重篤でない限り救急車を呼ぶな」「施設で看取ってくれ」と言われ、病院では人・物不足の中、必死の治療が行われた。
コロナ禍でも国や東京都は、公立・公的病院の再編・統合や独法化を進める。独法化で企業は儲かっても、人件費は減らされ、生活保護者などの受け入れが困難になる可能性も。すべての人の命を守るために、公立病院の役割を見直し、医療・福祉の分野で雇用を増やし、労働者を守れと本書は提言する。医療削減の流れを変えねば。(く)
- 日本の包茎 男の体の200年史
- 澁谷知美 著
- 筑摩書房1600円
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江戸から現代まで「包茎」はどう捉えられ、変化してきたのか、資料を元に明らかにする書。
包茎といえば思い出すのはやはりあの有名医師。ブームの立役者は自分だとも話していたそうだが、歴史はもっと深い。記録からもわかるとおり、「皮かむりは恥ずかしい」という風潮は戦前からあった。だが商品化に拍車がかかったのは戦後、美容整形ブームを経たバブル期以降だ。「ポパイ」「スコラ」など青年誌の記事では頻繁に「包茎はフケツ」、「キライ」との女性の「語り」入りの記事が掲載された。その膨大なスポンサーはもちろん美容整形外科なわけだが、からくりを知らずに女性の総意だと信じてしまった読者も多かっただろう。
しかし、本当の快感も相手との関係性も追求せず、皮とモノの大小長短ばかりにこだわる日本の男の性って、かくも貧困なのかと改めてため息が出る。まずは自分の体を肯定し、包茎をバカにする男同士の関係を変えよう。(梅)
nigger(ニガー) ディック・グレゴリー自伝
ディック・グレゴリー、R・リプサイト 著 柳下國興 訳
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- nigger(ニガー) ディック・グレゴリー自伝
- ディック・グレゴリー、R・リプサイト 著 柳下國興 訳
- 現代書館2300円
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ディック・グレゴリーは全米で大人気を博したコメディアンで、1960年代の公民権運動では先頭に立った。当時のアメリカで出版された自伝が、BLMの時代に日本で翻訳出版。タイトルの「nigger」は最も強い黒人差別の表現だが、それを敢えて使うのがディックのスタイルだ。
お金もないし父親もいないが、愛情深い母親ときょうだいたちと暮らすディックは、うそで現実逃避する子ども時代を送った。アスリートとして頭角を現し、しゃべりがウケるようになると、コメディアンの世界に入って、人種問題を前面に出す話術で有名に。理不尽な差別に遭うと、彼の心の底に潜む「モンスター」と呼ぶ感情が背中を押していく。何度も叩かれるので「黒人の魂にはタコができている」、差別は他人事ではない、「“私には関係ない”では許されない」と書く。
古典的家族観がもどかしいものの、的確で軽妙な訳もいい。あの公民権運動が肌感覚で今に迫り、心が揺さぶられる。(三)