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ふぇみんの書評

BIRTH いのちの始まりを考える講義

S・ギルバート、C・ピント-コレイア 著 阿久津英憲 監訳

    BIRTH いのちの始まりを考える講義
  • S・ギルバート、C・ピント-コレイア 著 阿久津英憲 監訳
  • 羊土社2400円
代理出産、卵子提供、受精卵診断、ヒトゲノム編集など、体外受精という技術が社会にもたらした影響は極めて大きい。著名な発生生物学者である著者らは、際限なく拡大するこれら科学技術に誠実な筆致で警鐘を鳴らす。ギルバートは「遺伝子決定論」が間違いであり、受精、受胎が畏怖の念を起こすほど緻密な機序で成り立っていることをていねいに解説する。  研究者であり科学史家・作家のピント‐コレイアは、自身が不妊に苦しんで体外受精を繰り返し、立て続けに“失敗”した「酷な経験」から、生殖補助技術(ART)は成功率が低く、子を得られなかったカップルには「深い絶望と経済的な破綻へと続く道」だと語る。科学史などの研究者でフェミニストのダナ・ハラウェイも一文を寄せている。本邦では昨年「生殖補助医療法」が成立し、不妊治療も健康保険適用の予定だ。こうした動き(生殖の商業化も含む)に疑問を抱く人、不妊治療がつらく終結に悩む人に一読を勧める。(R)

コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記

稲葉剛、小林美穂子、和田靜香 著

  • コロナ禍の東京を駆ける 緊急事態宣言下の困窮者支援日記
  • 稲葉剛、小林美穂子、和田靜香 著
  • 岩波書店1900円
コロナ禍の東京で、住むところを失った人々の生活再建を支援する「つくろい東京ファンド」による2020年4月から6月までの活動日記を中心にした書。著者は、支援に右往左往する日々をSNSに綴っていた小林、その読者だったライター・和田、つくろいの中心人物・稲葉。小林の腹の底からの怒りと疲労(ときどき喜び)が、支援者視点で語られる日記が中心だ。  緊急事態宣言でネットカフェも休業対象になると、ネカフェを「住まい」にしていた人々がいきなり路上に放り出された。「住まいは人権」をモットーに、つくろいのメンバーは支援に駆ける。そして「所持金60円」などと連絡があれば、駆けつけ同行して生活保護受給に向けて、水際作戦を続ける福祉事務所とバトルを繰り広げる。「久しぶりに甘いものを飲んだ」という女性の言葉に、小林は震える。相談者と共に泣き笑いの日々がずしっと重い。「コロナ禍を転機に福祉を充実させましょうよ」と言う稲葉の言葉に、心から同感する。(三)

病と障害と、傍らにあった本。

岩崎航、三角みづ紀、坂口恭平、森まゆみほか 著

  • 病と障害と、傍らにあった本。
  • 岩崎航、三角みづ紀、坂口恭平、森まゆみほか 著
  • 里山社2000円
 人から薦められた本は、その人の熱量も相まって深く印象を残すが、本書の読後感を何と表現すればいいだろう。病や障害を得た、あるいはそれらを得た近親者を介護する12人が、絶望的な状況の中で出合った本(または言葉)について記した文章は、著者らの魂を救った本だけあって、伝えたいという思いと熱量に心震えてしまう。   聞こえの障害がある齋藤陽道は失った自尊心を母の絵日記で取り戻した。20歳で潰瘍性大腸炎を患った頭木弘樹は、カフカの『変身』の主人公と自分の酷似に驚き、読みにくかった『カラマーゾフの兄弟』が自分の「くどくど」「もごもご」する心境と合致して心地よく、「自分の物語を新しく書き直す」ために文学の必要性を説く。ALSの母を介護した川口有美子は、神谷美恵子を読み、「野のすみれのように」ただ生きる母を受け入れる。  著者らは本を通して世界と関係を結び直した。だから私も困難に陥っても、きっと出合うべき言葉があると信じられるのだ。(揚)
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 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
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