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ふぇみんの書評

難民たちの日中戦争 戦火に奪われた日常

芳井研一 著

    難民たちの日中戦争 戦火に奪われた日常
  • 芳井研一 著
  • 平凡社840円
日中全面戦争により、土地を追われた中国の農民や都市爆撃によって家を失った人々は数千万人にものぼる。民間人犠牲というと、砲爆撃による直接の死傷者は連想しても、難民化による飢餓や栄養失調、病で死に至るケースは見落としがちだ。アジア太平洋戦争における中国の犠牲者数が1000万から2000万と幅があるのは、こうした数えられない場合が多いからである。  1942年4月のドゥリットル空襲という想定外の本土攻撃に衝撃を受けた日本軍は、再び本土空襲を受けた場合の国内感情を意識し、論理的な作戦から中国本土の航空基地を叩く闇雲な作戦へ転換、戦域拡大がさらなる難民を生むことにもなった。本書は、日本軍の展開した作戦と難民の動向を照らし合わせ、さらに国民党政府と中国共産党の難民救済対策など、これまで顧みられなかった〈戦争に追われた人々〉に光をあて、新たな視点から俯瞰した日中戦争史。新鮮である以上に重要といえよう。(た)

ディディの傘

ファン・ジョンウン 著 斎藤真理子 訳

  • ディディの傘
  • ファン・ジョンウン 著 斎藤真理子 訳
  • 亜紀書房1600円
著者の作品には、こんな小説は読んだことがないという感想を持つが、今回も独特で不思議な感覚を味わった。本書は「d」と「何も言う必要がない」の2作品を収める。どちらもラブストーリーなのに読むと苦しい。登場人物も違う全く異なる小説がなぜ一緒に所収? これらの疑問は読み終えると、ゆっくり解かれていく。  本書は「セウォル号事件」や「キャンドルデモ」など、さまざまな事件や激変する韓国社会を背景に、現在と過去が交錯して登場人物の体験が綴られる(各々の事件については、訳者の解説が役立った)。  キャンドルデモが“成功”しても、性差別や少数者の問題、セウォル号事件の遺族への誹謗中傷、格差などの問題は残されたまま。登場人物の呻きは、作者や読む者の呻き、誰かの呻きだ。著者は、韓国の重い歴史を背負う人や生きづらさを抱える人、そして「雨の時、隣の人が傘を持っているかを気にかける人」を独自の表現で書き続ける。そこが好きだ。(り)

イエスの意味はイエス、それから…

カロリン・エムケ 著 浅井晶子 訳

  • イエスの意味はイエス、それから…
  • カロリン・エムケ 著 浅井晶子 訳
  • みすず書房2800円
 「これは真実であるだけでなく、誠実でもあるだろうか」。著者はその「疑念」をまずは自分ひとりに向かって、つぶやくように書く。ドイツ人ジャーナリストであり、戦争被害者、性的マイノリティなどをテーマに幅広い著述と社会活動を行っている著者。本書は#MeToo運動を発端として「性」をめぐる権力構造をテーマに、彼女が思索、自問を繰り返した言葉を「ひとりの人間として」、朗読会で発表したものである。  平坦ではなかったレズビアンとしての道のり、かつての職場でのセクハラ、DVを受けた友人、紛争地の少年捕虜…など、著者の個人的なエピソードについて長い時間をかけて小さな光をあてていく。セクハラへのノーは、自分の望むものにイエスと言う場所を開くためだというエムケの言葉は、#Me Too運動のもっと先にある到達点を示しているようで読む者を解放する。イエスのその先には魅惑や欲望、生命力と渾然一体となった未知のものが続いている。(優)
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