ケアするのは誰か? 新しい民主主義のかたちへ
J・C・トロント 著 岡野八代 訳・著
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ケアするのは誰か? 新しい民主主義のかたちへ
- J・C・トロント 著 岡野八代 訳・著
- 発行 白澤社 発売 現代書館1700円
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コロナ禍で、今まで以上に痛感する人が多いだろう。「なぜ介護・医療などケアする人の声が政治に届かないのか」。本書は、2013年に著者のトロントが米・ブラウン民主主義賞を受賞した際の講演録を、政治学者の岡野が翻訳・解説したものだ。ジェンダー・階級・人種を包括する新しい民主主義のあり方に目を開かれた。
トロントはケアを「よりよく善く生きるため」に、世界を維持・継続・修復するためのすべての活動と定義。誰もが長い時間軸の中でケアし・される存在なのに、「市場第一民主主義」の中でケア労働は貶められ、不当に低く評価され、女性や移民に割り当てられた。一方で、ケアに携わらない「特権的な無責任」者(男女問わず)が政治や社会を牛耳る。トロントが提唱する民主主義は、ケア責任の配分を主軸とする「共にケアする民主主義」。驚きとともに読む進めるが、確かに私たちの政治参画も働き方も国の予算配分も、全てが公正に回る。実現したい、本書と。(ST)
離島の本屋ふたたび 大きな島と小さな島で本屋の灯りをともす人たち
朴順梨 著
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- 離島の本屋ふたたび 大きな島と小さな島で本屋の灯りをともす人たち
- 朴順梨 著
- ころから1600円
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本書では「ホンビニ」なる表現が登場する。そう、離島の本屋の多くは本以外に駄菓子や焼酎、ちゃんぽんスープの素!?などが置かれ、さながら「コンビニ」のよう。店主とお客が他愛ない会話を楽しむ姿が微笑ましい。石垣島では、南京事件や慰安所の記述のため地域の学校で扱いが中止された、八重山の歴史についての本を置く店主の姿勢に、「文化の発信基地」としての本屋の誇りがうかがえる。
著者が取材を重ねるうち、かつて訪問した本屋がなくなる事例も少なからず登場する。当初は島の本屋が「なくならないことが正解」と著者は考えたが、今は本と本屋に関わったことを「楽しかったし幸せだった」と応援し続け、閉店後の店主の姿を追うことも。さらにコロナ禍の中、本屋やそこに関わる人との出会いが一期一会にならないように、と著者は切実に願う。本書はシリーズ第2弾だが、第3弾も楽しみに待ちたい。欲を言えば、取材年月日が記されるとより過去との比較がしやすいかと感じた。(タ)
ヒロインたちの聖書ものがたり キリスト教は女性をどう語ってきたか
福嶋裕子 著
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- ヒロインたちの聖書ものがたり キリスト教は女性をどう語ってきたか
- 福嶋裕子 著
- ヘウレーカ2700円
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「フェミニスト神学」は、日本ではかなりマイナーな分野だろう。これは女性の視点からキリスト教信仰と神学を捉え直すものであり、1960年代後半からの女性運動や、差別・抑圧からの解放を目指して実践的信仰を説いた「解放の神学」などから刺激を受けて盛んになった活動だ。本書はこの流れを汲みながら聖書やキリスト教について多くの論考を発表してきた著者の、初の一般向け書籍だ。
とりわけありがたいのは、本書がこれまであまり光の当たっていなかった旧約聖書の女性たちを中心に、その行動や選択、心情を、それぞれの物語が成立したと考えられる時代の文化・社会背景も交えながら生き生きと共感あふれる筆致で描き出している点だ。ちなみに本書の隠れたテーマは「エクソダス」(「新しい出発」「困難な状況からの解放」)。聖書全体の流れ、さらにジェンダーをめぐる古代の見解も俯瞰できる本書は、女性の視点からの聖書アプローチの格好の入門書ともいえる。(R)