性からよむ江戸時代 生活の現場から
沢山美果子 著
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性からよむ江戸時代 生活の現場から
- 沢山美果子 著
- 岩波書店820円
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江戸時代の庶民って性におおらかではなかったの?! ―本書は、家や村に残された文書群や日記などを読み解き、江戸時代後期の庶民の性の営み(交わる、孕む、堕ろす、産む、間引く、買う売る)を明らかにした。歴史研究で性がテーマとなるのは2000年以降とか。こんなことまで資料に?!という驚きや好奇心が止まらない。
江戸時代後期は、下層民の間でも「家」の維持や存続が重視され始め、そこに人口増加政策を目論む江戸幕府が、藩や共同体を通じて、捨て子や堕胎・間引きの禁止から、妊娠・出産・婚姻の管理、 「養生訓」などを通じた快楽の性の禁止をし、「婚姻・性・生殖の一致」を強調。婚外子や「不義密通」の罪が強調され、性売買も大衆化。その残滓に今も私たちは縛られている! 暗い気持ちになるが、禁止・管理の背景に自由な性を営んだ男女がいた。夫婦の交わりを主張し、「不義の子」疑惑をきっぱりと否定する村女など生き生きと立ち現れる庶民の、特に女の姿をもっと見たい。(BW)
女の答えはピッチにある 女子サッカーが私に教えてくれたこと
キム・ホンビ 著 小山内園子 訳
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- 女の答えはピッチにある 女子サッカーが私に教えてくれたこと
- キム・ホンビ 著 小山内園子 訳
- 白水社2000円
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サッカー愛が止まらない著者がアマチュア女子サッカーチームに入団した。SNSに書いたサッカーLOVEでテンポのいいエッセイが、“フェミじゃん!”と注目を集め、出版されたのが本書。
男子はサッカー、女子はドッジボールと「差別」される韓国だが、女子プロサッカーのKWリーグがあり、アマチュアチームも多い。仲間にはうまい素人から元プロ選手も。練習も試合も、監督や先輩や対戦相手のシニア男子チームとのつきあいからも、社会の一面が垣間見える。中年男子チームとの練習試合で著者チームはいきなりマンスプレイニング(「“説教”界のオフサイド」だと!)された。めらめらと火がついたチームはマンプレを吹っ飛ばす! このシーン、胸がスカッとすること請け合い。
試合して、家族とも闘って、女と女の同盟ができる。サッカーを通して、マンプレや世間の壁に直面するたびに、ピッチを踏みしめる足に力がはいる彼女たち。かっこいいし、ワクワクする。(サ)
農と食の戦後史 敗戦からポスト・コロナまで
大野和興、天笠啓祐 著
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- 農と食の戦後史 敗戦からポスト・コロナまで
- 大野和興、天笠啓祐 著
- 緑風出版1800円
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戦前、地主制の下、多くの農民が小作農として困窮していた。では戦後、農地改革で自作農となった農民は自立と自由を手にできたのか。この本は戦後の「農」の在り方を、世界情勢や政治と経済のマクロな視点から農村や市場で起きていることなどをテーマに、ジャーナリストの大野和興氏と天笠啓祐氏の対談で構成されている。
科学技術の進歩により、機械化と農薬によって、循環型農業が崩壊していくなかで、農民の人減らしが政策となり、それが農村にどんな影響を与えたのか。新自由主義の台頭で資本による農業の工業化が推し進められ、「食」と「農」がどう変化しているのか。国策と経済優先主義に翻弄され、「農家には権利も無くなっている」という状況のなかで、コロナ禍で支え合う人々の「農」と「食」と「命」。農家と消費者が共につくる未来もある。
日本の農業を見つめてきた2人の鋭い視点と深い造詣に、これまでの認識を新たにし農業の姿を突き付けられた感じがした。(ぶ)