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ふぇみんの書評

車椅子の横に立つ人 障害から見つめる「生きにくさ」

荒井裕樹 著

    車椅子の横に立つ人 障害から見つめる「生きにくさ」
  • 荒井裕樹 著
  • 青土社1800円
車椅子の横に立つ人を、なぜ身内か介助者と思うのか、それ以外の関係の可能性を排して―この問いが明らかにする私たちの想像力の狭さ。それは障害者の「生きにくさ」と「語りにくさ」を生む。著者は学生の頃から障害者と深く関わり、アートや文学などを通じた「障害者文化論」も研究。本書は「語りにくい生きにくさ」についての2011年からの論考集だ。  「わかりやすさ」が求められる今、論考の一つ一つが、既存の言葉や語りの重層性・多様性や情念、声にならないものを掘り起こす。例えば尊厳死における「自己決定」の欺瞞、表現せざるを得なかった障害者の渾身の綴り、「発達障害」の氾濫にみる社会の不寛容。一方でやまゆり園事件では「障害者の尊厳が傷つけられた時に怒る言葉」がないと危惧する。  言葉が思考を、社会を規定する。今こそ障害をめぐる言葉と向き合い、想像力を鍛えることが必要。それは誰もが生きやすい社会につながるのではないか。(TT)

ナチス機関誌「女性展望」を読む 女性表象、日常生活、戦時動員

桑原ヒサ子 著

  • ナチス機関誌「女性展望」を読む 女性表象、日常生活、戦時動員
  • 桑原ヒサ子 著
  • 青弓社4800円
ナチ政権下の女性の世界を再構成する貴重な書。「女性展望」は当時発行部数1位(最大140万部)の唯一の官製女性雑誌(1932~45年)で、ナチ女性団が編集・発行する、女性のための雑誌である。ナチスのプロパガンダは、流行服の型紙付録やファッション、連載小説等娯楽、育児や料理、保存食や家庭菜園、服のリサイクル等実用的な「節約」、女子教育、家電や洗剤等の広告、奉仕活動の報告…多様に展開、巧みだ。  女性団指導者は「民族の母」というスローガンを掲げ、社会そのものを「大きな家庭」と見なし、女性たちが個々の「小さな家庭」から社会へ出ていく口実とした。総力戦における「銃後」の女性の活躍は日本のそれとも重なるし、「新しい生活様式」のコロナ禍の現在の日常にも繋がって見える。戦後も続く家父長制イデオロギーの中、ドイツで 女性の戦争責任が認識されるのは1980年代末のフェミニズム運動からだという。自省をもって読みたい。(の)

人新世の「資本論」

斎藤幸平 著

  • 人新世の「資本論」
  • 斎藤幸平 著
  • 集英社1020円
 巻頭から著者は、SDGsは喫緊の環境危機から目を背けさせる「アヘン」だと糾弾する。「反緊縮」も「再配分」も、結局は資本主義に取り込まれるだけであり、資本は気候変動をも商機とする。資本主義である限り地球環境は破滅するしかない、と。その資本主義からの脱却を、特に『資本論』以降のマルクスの洞察を手掛かりに、緻密な論考を重ねて探る。  「使用価値経済への転換」「労働時間の短縮」「画一的な分業の廃止」「生産過程の民主化」「エッセンシャル・ワークの重視」…ふぇみんの読者には“当たり前”のような事柄だが、これらの実現が環境破壊を阻止する手段でもあるというのだから、力が湧く。さらに、メキシコ、パリ、デトロイト等での地味だが画期的な活動を多々例示して勇気づけてもくれる。  コロナ禍で、99%の人々にとって真に必要なものが何であるかが明らかになった。それらを機能させ生かす労働の“かたち”を、自分たちの意思で決める時なのだ。(I)
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