WOMEN'S DEMOCRATIC JOURNAL femin

  • HOME
  • ふぇみんの書評

ふぇみんの書評

それでもなおユダヤ人であること ブエノスアイレスに生きる〈記憶の民〉

宇田川彩 著

    それでもなおユダヤ人であること ブエノスアイレスに生きる〈記憶の民〉
  • 宇田川彩 著
  • 世界思想社3800円
 アルゼンチンへ東欧からユダヤ人が本格的に移民したのは19世紀後半。ブエノスアイレスに暮らした経験もある筆者は、ユダヤ人と記憶とのかかわりをさまざまな角度から研究してきた。アルゼンチンでも戦争を知らない世代が増えている。人びとの営みも多種多様だ。だから厳しい宗教的戒律、ホロコーストの被害者といったユダヤ人に対するこちらの短絡的なレッテルはすぐはがされる。とはいえ居住国に同化してしまうのではなく、食べるもの、語ること、歌や詩に、伝統行事に、家族写真に見られる、長くて重い時間の集積、「記憶の民」が大事に持っている断片を、筆者はていねいに拾い集め、つないで論をまとめてきた。  「他者と自己とが切り離されないような形で、つねにあらかじめ身体や環境に組み込まれているようなユダヤ的ディアスポラの在り方は、あるいは現代のスタンダードになりつつあるのかもしれない」との結びは、とても説得力がある。(室)

乳房のくにで

深沢潮 著

  • 乳房のくにで
  • 深沢潮 著
  • 双葉社1600円
この国は、女を娘、妻、嫁、母役割に押し込める圧力と、「母」への過剰な価値付けにあふれている。「母」の象徴ともいえる「乳房」を主題に、「母」なるものに翻弄される女のリアルと、希望やシスターフッドを余すところなく描いたフェミ小説。  幼子を抱え貧困にあえぐシングルマザー福美は、ありあまる母乳を見初められ、政治家一家に乳母(ナニィ)として雇われるが、「母乳が出ない母」こそかつて自分をいじめた奈江。優越感に浸る福美、福美に懐いていく奈江の子、嫉妬し我が子にいらつく奈江、奈江をなじる家制度の権化のような姑千代…。一足触発で事件が起こるサスペンスのごとく物語は進むのだが、福美と奈江それぞれの語りが入れ替わることで、物語は思わぬ方へ。福美、奈江、千代をここまで追い詰め、生きづらくし、分断したのは誰なのか、何なのか。「わたしたち女性は、国家の乳母ではないんです」。極上のラストに胸が熱くなる。(金)

問いかけるアイヌ・アート

池田忍 編

  • 問いかけるアイヌ・アート
  • 池田忍 編
  • 岩波書店2800円
  アイヌの工芸というと熊や人型の彫り物が浮かぶが、単なる観光土産だろうという浅はかさを本書に覆された。アイヌ・アートの奥深さや斬新性、そして多くの葛藤を、作り手本人や研究者が論じ、特にジェンダー視点のある論者の章は読み応えがあった。  木彫りと伝統模様の刺繍が中心だが、精神性が宿る独特の意匠が目を惹く。砂澤ビッキやチカップ美恵子など、生活にも哲学を持った作り手についての評や熊の木彫りのルーツ、作り手同士の切磋琢磨の話も興味深い。日本政府による「同化」政策や差別・貧困の中で工芸の継承を問い、伝統と生活の糧の両立の問題にも考えさせられる。  図表も掲載され見ていて楽しい。とりわけ布と見まがう木彫りの帽子や、魚の骨の中で泳ぐ小魚の木彫りにはユーモアもある。近年は若い作り手が新しいデザインを展開しているという。話題のマンガ『ゴールデン・カムイ』も登場。アイヌ・アートをめぐる深く熱い一冊。(三)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
このページのTOPへ