私たちはふつうに老いることができない 高齢化する障害者家族
児玉真美 著
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私たちはふつうに老いることができない 高齢化する障害者家族
- 児玉真美 著
- 大月書店1800円
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生命倫理関連の著述家であり、重度重複障害者の親である著者が、重度障害の子をもつ高齢期の女性たちに取材し、自身を含めた障害者家族を考察している。
重度障害児・者の親は、子育ての喜びと共に、苦労も絶えず、現実の生活は想像以上に過酷で、高齢期になれば自身の持病も抱え、親などの多重介護をする人が少なくない。国はノーマライゼーションの理念のもとに「地域移行」を進めるが、福祉予算が減らされ、自治体は入所施設の整備に取り組めず、支援なき地域で家族は疲弊するばかり。親(特に母親)はまるで老いなどないように、世間や専門職からも「親なら面倒をみろ」「さっさと子離れしろ」と厳しく言われ
続けてきた。著者は、親が介護を続けられるよう支援するのではなく、介護をしない選択の権利を含め、親自身の生活や人生を生きられるよう支援の必要性を訴える。親への支援は子の支援にもつながる。見過ごされた課題を社会で早急に考えるべきと思う。(よ)
彼女の名前は
チョ・ナムジュ 著 小山内園子、すんみ 訳
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- 彼女の名前は
- チョ・ナムジュ 著 小山内園子、すんみ 訳
- 筑摩書房1600円
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多くの女性の共感を集めた韓国小説『82年生まれ、キムジヨン』著者による短編集。新聞連載の取材記事が元になっており、28篇に登場する女性たちは、小学生から高齢者まで年齢も職業も立場もさまざま。「キムジヨンは私だ」と思ったように、この中の誰かに親しみを感じるに違いない。
母から否定される娘、「嫁」になった途端始まる姑の過干渉、妊婦への冷たい視線と扱い、法的保証のないレズビアンカップル、生理用品が買えない貧困女性、娘の仕事上での活躍を応援するも孫育てで疲弊する祖母…。実際の事件を背景に、たたかう女性が描かれるのも本作の特徴。非正規闘争をする給食調理員、デモに参加する高校生、ミサイル配備反対闘争に加わる高齢女性…生易しくない暮らし、それでも確かな信頼や連帯―。
消されてきた女性の声を大きく響かせ、彼女の名を明かす。次世代のために「半歩でも」踏み出す勇気を手渡された。(CH)
黒い雨に撃たれて 二つの祖国を生きた日系人家族の物語 上・下
パメラ・R・サカモト 著 池田年穂ほか 訳
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- 黒い雨に撃たれて 二つの祖国を生きた日系人家族の物語 上・下
- パメラ・R・サカモト 著 池田年穂ほか 訳
- 慶應義塾大学出版会 各2500円
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広島にルーツを持つフクハラ家を軸に描かれた、在米日系人の日米における生活記録である。厳しい人種差別に遭い、それに拍車をかけた大恐慌。それまで両国間を行き来していた2世らは、日米開戦によって、太平洋を挟んだ二つの祖国に分断されてしまう。米国では敵性国民として砂漠の中の収容所に隔離され、日本では米国生まれを理由にスパイ視されるようになっていく。日本軍に召集された兄は中国戦線へ、弟は市民権回復を期待して対日戦争に協力した。戦争が終わって目にした故郷は、原爆で壊滅していた。
本書は、戦争をはさんだ時代の日常生活が生き生きと描かれ、日系人同士、両国における日系人と日系人を取り巻く社会を、ミクロとマクロ両方の視点から描くユニークな資料となっている。政治によって民族間の軋轢が悪化する仕組みに着目するのは、杉原千畝の研究を基にした米国ホロコースト記念博物館での著者の仕事が基盤になっているのだろう。(た)