性暴力被害の実際 被害はどのように起き、どう回復するのか
齋藤梓、大竹裕子 編著
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性暴力被害の実際 被害はどのように起き、どう回復するのか
- 齋藤梓、大竹裕子 編著
- 金剛出版2800円
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性暴力被害者の女性たちから、自分たちの経験をもとに性暴力の実態を研究してほしいと依頼された研究者たちが、31人にインタビューし調査研究した成果をまとめた書。
「不同意を証明できない」「明白な抵抗をしていない」など、なぜ性暴力が犯罪と認められにくいのか。多角的に証言を分析し、被害者をじわじわ罠にはめていく「エントラップメント型」や地位・関係性を利用した「社会的抗拒不能」という加害プロセスが新たに明らかにされ、性犯罪に対する刑法や社会の認識が実態とあまりにもかけ離れていることが示された。被害者なのに自分を責める…。こんなことを認める社会はもう変えなくては。被害を“性暴力”と認識し、語り出し、どう回復していったのか。勇気を出して自分を見つめながら体験を語ってくれた女性たち、それをまとめた研究者たちの熱意が伝わる。刑法性犯罪規定の見直しが検討されている今、強いメッセージが受け取れる。(三)
- 月や、あらん
- 崎山多美 著
- インパクト出版会2000円
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沖縄の、寒くもない10月。主人公の女性が眠れぬ夜にベランダで見るのは、夢うつつのおぼろげな月か、妖怪か、それとも…? 沖縄の作家による本書は待望の復刊。
乏しい収入でも、仕事も住まいも他人の好意でなんとか暮らしている主人公。一方、ミドゥンミッチャイという女3人の地方出版社を立ち上げ、血みどろになって働き、情熱を注いだ中で差別に見舞われ、散ってしまうイナグドゥシ(女友だち)。沖縄のカミンチュー(神人)が現れる幻想的な日常と、アラフォーシングル女性たちに起こる日常が入り交じり、豊かな言葉と唸る擬音語とが流れる物語だ。
ヤマト言葉に翻訳されないウチナー口は、読者が誰なのかを問いかけながら、沖縄の記憶を抱いた時間や結いの精神に満ちた空間へと導く。文化、気候、森や海、そして戦争など、朦朧とした状況の中で主人公はあたふたと自分の立つ位置が定まらない。しかし、それを受け入れて見つめる。マブイのざわめきを聞くように。(み)
増補版 戦争は教室から始まる 元軍国少女・北村小夜が語る
「日の丸・君が代」強制に反対する神奈川の会 編
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- 増補版 戦争は教室から始まる 元軍国少女・北村小夜が語る
- 「日の丸・君が代」強制に反対する神奈川の会 編
- 現代書館1800円
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本書は1925年生まれの元教員、北村小夜さんの講演録をまとめた『戦争は教室から始まる』(2008年)の増補版。「ハタとウタにそそのかされた軍国少女」と自らを省みる北村さんは、好きだった唱歌や漫画に仕込まれていた戦意鼓舞について語る。
「汽車ポッポ」は「兵隊さんの汽車」という題で、万歳 万歳 兵隊さん、との歌詞が。「お山の杉の子」しかり、「蛍の光」しかり。戦後、問題の歌詞だけを切り捨て、平然と明るく健全な歌に生まれ変わらせていた。近年の道徳教育において「我が国と故郷を愛する」象徴として再び注目を浴びる。教室から戦争はなくなっていないのではないか。
増補版は新たに「道徳の教科化」「パラリンピック」の項目が加わった。パラ・メダリストは、残された健常な部分を鍛えて戦う。しかし、それができない多くの障害者との格差が広がり、身近な障害者への理解が深まらないのでは?など、考える視点をたくさんくれる本だ。(室)