東京オリンピックの社会学 危機と祝祭の2020JAPAN
阿部潔 著
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東京オリンピックの社会学 危機と祝祭の2020JAPAN
- 阿部潔 著
- コモンズ2600円
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過去/現在/未来の〈時間〉と、スポーツ・消費に結びついた〈ナショナリズム〉から、2020東京オリンピックを社会学的に考える。
キーワードは「論理・説得ではなく情動・共感の動員」だ。「集合的情動を巧みに操縦し、特定の方向へと誘導するソーシャルメディア時代に特有のナショナリズムの力学が発揮されている」と著者は書き、その中で、オリンピック反対の言論や運動は、さまざまな形で周縁化され、主要メディアにより徹底的に無視されたとする。
そして、三重のカモフラージュ=偽装を指摘する。社会全体のかりそめの統合=分断状況を覆い隠そうとする社会的偽装、「復興」というレトリックで本来取り組むべき事柄を遠ざけてきた公共政策の偽装、「すべての国民=ネイション」の名の下での狡猾な政治的偽装だ。
世論で圧倒的多数を占める「オリンピック賛成」は「日本にとって意義がある」との予感と期待に過ぎない。「福島は(被災地は)オリンピックどころじゃねえ!」(き)
「自分時間」を生きる 在日の女と家族と仕事
朴和美 著
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- 「自分時間」を生きる 在日の女と家族と仕事
- 朴和美 著
- 三一書房2300円
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在日女性文芸誌「地に舟をこげ」ほかに執筆した小論やエッセイがまとめられた本書。「在日」と「女」に軸足を置き、家族や仕事、旅などについて綴っている。
在日への差別が激しい日本社会を飛び出し、海外留学・勤務を経験した著者は、欧米社会やさまざまな民族文化に触れ、日本社会や在日社会を外から見つめてきた。互助組織の役割も担う在日の家族・親族共同体は、家族を神聖化・絶対化する傾向にあり、性差別が強い日本で、在日女性たちは何重にも抑圧された。植民地支配と家庭内暴力との密接な関わり、抑圧の構造を鋭く指摘する著者は、在日の言語の複雑性にも言及。日本語とは抑圧者の言語であり、日本語と韓国語を「国家言語」として対象化する必要や、在日が十全に生きていくための「在日による新しく独自な日本語」の創出を説く。
日本・在日社会の家父長制に抗い、「在日朝鮮人女一人会」をつくった著者の自由な生き方や、新しい文化創造の模索に共鳴。 (よ)
告白 岐阜・黒川 満蒙開拓団73年の記録
川恵実 NHK ETV特集取材班 著
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- 告白 岐阜・黒川 満蒙開拓団73年の記録
- 川恵実 NHK ETV特集取材班 著
- かもがわ出版2500円
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敗戦時に満州に取り残された岐阜県黒川村出身者の開拓団が、ソ連兵に中国人の襲撃から守ってもらうため、団の若い未婚女性にソ連兵の性接待をさせた。すでに複数の取材には語られていた事実を、2017年に放送した番組「告白 満蒙開拓の女たち」のディレクターらが、サバイバーや関係者を訪ねた取材秘話をまとめた書。
女性たちはどうやって選ばれたのか。死んだ親に代わり、妹弟を守るために自ら「接待」に出た姉。引き揚げの途中、中国人に船賃として性接待が要求されたという話。どうして「告白」を始めたのか。帰国後に、せめて「苦労かけた」と言ってほしかったという女性たちの口には出しにくい気持ち…。正直に語られる証言に、息をのむ。
気になるのは、「犠牲」や「接待」という言葉の使われ方だ。75年が経つ今、なぜ取材者はこれを戦争の性暴力と明言しないのか。女性を「犠牲」にする判断が、本当に唯一だったのか。事実を知った者は考えなくてはならない。(三)