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ふぇみんの書評

かくされてきた戦争孤児

金田茉莉 著

    かくされてきた戦争孤児
  • 金田茉莉 著
  • 講談社1600円
 10歳の時、学童疎開中に東京大空襲で母と姉妹を失い孤児になった著者(本紙2019年8月15日号登場)。戦後は親戚宅で非人道的に働かされ、差別の中で生きてきたが、大病を機に48歳で自身の経験を明らかにし、実態調査に乗り出す。本書は著者が「遺言」というように、孤児への聞き取りや調査の渾身の集大成だ。  1946年の政府発表は「孤児は3000人で全員保護」。しかし著者の調査と丹念な聞き取りで、実際は12万人で学童疎開年齢が多く、ほとんどが親戚宅や農家で奴隷のように働かされ、8割の孤児が自殺を考えたことが明らかに。逃げて浮浪児になれば餓死や凍死、捕まると施設で動物のように扱われた。  国策の学童疎開なのに、国は「勝手に生きて勝手に死ね」と。著者を貫くのは国に対する憤りと孤児への哀悼、「二度と不幸な子どもをつくらないで」という祈り。この国の子どもへの視線は今も当時と変わらないように思うが、著者の祈りを胸に刻み進みたい。(智)

ただ波に乗る Just Surf サーフィンのエスノグラフィー

水野英莉 著

  • ただ波に乗る Just Surf サーフィンのエスノグラフィー
  • 水野英莉 著
  • 晃洋書房2400円
 ただサーフィンがしたい。そう思った著者が、サーフィンを自分自身の手に取り戻すまでの個人的経験の詳細な記録。非白人で女性であるという、サーフィンの世界では複数のマイノリティー性をもつ著者による、自らの経験からサーフィン世界の構造的性差別をあぶり出そうとする試みでもある。  女性は「本物の」サーファーとして扱われない。それが故の様々な経験について書かれているが、中でも印象的なのは、知らない男性から突然、基本的なことを助言される話だ。これには、「恩着せがましい親切」(“patronizing”)という名前が付いていたのだ! 誰が最も「本物の」サーファーに近いかをめぐる、女性同士の分断や抑圧についても考えさせられる。  男性中心的な世界に、肩身を狭くして生きるのでもなく加担するのでもない関わり方として示されたオルタナティブは、サーフィンではないけれども似たような男性中心的な世界で模索を続ける者にとっても示唆に富む。(m)

仏陀バンクの挑戦 バングラデシュ、貧困の村で立ち上がる日本人と仏教系先住民たち

伊勢祥延 著

  • 仏陀バンクの挑戦 バングラデシュ、貧困の村で立ち上がる日本人と仏教系先住民たち
  • 伊勢祥延 著
  • 集広舎2000円
 バングラデシュはイスラム教国家のイメージが強いが、チッタゴン丘陵地帯には全人口の1%程度の仏教徒がいる。彼らは政府や軍に迫害され、貧困に苦しんでいる。  「仏陀バンク」は日本の仏教徒によるマイクロクレジット。例えば原資10万円を村人10人に1万円ずつ貸し、借りた村人は毎月1000円とお布施を払う。その返済により1カ月後には新規1人に貸せるシステムだ。本書ではカメラマンでもあり、「仏陀バンク」を数十の村で実現させた著者が10年の苦闘を綴る。  仏陀バンクの利用者は女性が多い。苗を購入できず空き農地をターメリック農園にした女性、子どもの教育資金をマンゴー農園で捻出した例もある。  仏陀バンクの融資には担保がいらない。これは仏教の信仰が信頼となっているからだ。仏教という伝統文化を新しい支援の仕組みとして生かした試みは、今後いっそう注目されるのではないか。(水)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月800円、3カ月2400円
 6カ月4800円、1年9600円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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