ヤンバルの深き森と海より
- 目取真俊 著
- 影書房3000円
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コロナ禍でざわつく4月21日、防衛省は辺野古新基地の軟弱地盤改良のために、7万本の砂杭を海底に打ち込む設計変更を沖縄県に申請した。知事選、県民投票で示された民意を無視した行いだ。
著者は沖縄の歴史と記憶を紡いだ文学作品を上梓する一方で、辺野古の海で新基地に抗議するカヌーを漕ぎ、ヘリパッド建設に反対して東村高江のゲート前に通う。本書は、そんな行動の中、2006年から19年までに書かれた沖縄をめぐる評論を集めた一冊だ。どの文章をとっても沖縄の怒りが溢れている。
現在、宮古島や石垣島への自衛隊配備が進むが、著者は、教科書検定で問題化した強制集団死を否定する歴史修正は自衛隊基地化の地ならしと喝破する。今も沖縄の人の記憶には、沖縄戦の教訓「軍隊は住民を守らない」が生々しく残るためだ。本書は「沖縄を“捨て石”にする構造は沖縄戦のときも現在も変わっていない」とヤマトゥンチューに鋭く突きつけてくる。(公)
女であるだけで
ソル・ケー・モオ 著 吉田栄人 訳
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- 女であるだけで
- ソル・ケー・モオ 著 吉田栄人 訳
- 国書刊行会2400円
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暴力を振るう夫を誤って殺してしまった先住民女性のオノリーナ。彼女の裁判を担当した白人の女性弁護士、デリア。恩赦で出所したオノリーナをデリアが迎える場面から、この物語は始まる。
メキシコ・ユカタン地域の先住民マヤの気鋭の作家である著者は、自らの社会の闇を告発する文学作品により、差別にまみれ、男性中心の社会の変革を試みる。
オノリーナは出所後の記者会見(恩赦が特別視された)で、先住民だから恩赦が与えられたのではという問いに、この法はわたしたちの法ではない、自分が夫に売られた時にも、暴力を振るわれている時にも守ってくれなかった、と答える。オノリーナは人生に消極的な人間ではなかった。だがなぜ、貧しく、文字も使えず、暴力をふるわれるままに生きてきたのか。デリアが生きる社会との対比からも、不平等な社会の歪みが見える。
女であるだけで…。でも、オノリーナは前に進む。光明が差すことが救いだ。(三)
ロスジェネのすべて 格差、貧困、「戦争論」
雨宮処凛 編著
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- ロスジェネのすべて 格差、貧困、「戦争論」
- 雨宮処凛 編著
- あけび書房1600円
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就職氷河期を経験した「ロスジェネ」世代は今40歳前後になった。人生の最も充実した時期であるはずの彼らの生は日本経済低迷の「失われた20年」と重なり合い、そこにはこの国の重い課題が先鋭的に立ち現れている。
「頑張れば報われる」価値観が社会に出るその時に自己責任に取って代わられ、非正規で食いつなぐ。気づいたら、伴侶なし、子なしでその日その日を生き凌ぐ。先行世代が煩悶してきた女性や男性であることの縛りは「贅沢品」のように遠い。他方、社会の閉塞感から、マジョリティーは既得権喪失の脅威に怯え、結局「ロスジェネ」は棄て置かれてきた。
編著者の雨宮処凛と、貴戸理恵、松本哉ら4人の当事者たちの対話に耳を傾けることで、「ロスジェネ」問題がこの世代特有のものではないことがみえてくる。歴史的には数百年続くというこの国の筋金入りの自己責任社会を、生き延びることで転換していくロスジェネ世代の実践に学びたい。(優)