孤塁 双葉郡消防士たちの3・11
- 吉田千亜 著
- 岩波書店1800円
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著者は福島原発事故以降、母子避難者などに丁寧に聞きとり著書にしてきた。今回は、自衛隊やハイパーレスキュー隊と異なり、ほとんど報道されてこなかった、双葉地域の広域消防本部の125人の消防活動に焦点を当てた。退職者などを除く、当時の職員の半数以上に聞き取りを行い、証言を事故後から時系列に本書をまとめた。
原発から20km圏外の川内村出張所に拠点を移し、限られた資器材で対応した震災直後の数日間。双葉地域の負傷者搬送や火災に対応し、原発への給水を担うことまで求められる。事前には「事故は起きない」とされていたゆえ、安定ヨウ素剤服用も、メンタルヘルス対策もなく、正確な情報も十分に伝えられていなかった。遺書を書いた人、「特攻」という言葉を使う人もいたという。
「忘れないでほしい」「我々の経験を活かしてほしい」と彼らは語る。ようやく残された貴重な証言を私たちは受け止め、活かさなくてはならないと強く思う。(き)
足をどかしてくれませんか。 メディアは女たちの声を届けているか
林香里 編 小島慶子、治部れんげほか 著
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- 足をどかしてくれませんか。 メディアは女たちの声を届けているか
- 林香里 編 小島慶子、治部れんげほか 著
- 亜紀書房1500円
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テレビやネット等のメディアからは日々ステレオタイプな女性像が発信される。ニュースや娯楽番組でメインを務めるのは常に男性、隣の女性は相づちを打ち微笑む、「お嫁さん候補」、CMに登場するのは仕事も家事もこなす女性か専業主婦…。制作側の意思決定層はいまだに男性中心だ。だがメディア側の常識は既に社会とズレているのでは? それは2017年にゲイ男性を揶揄するキャラクターを登場させたお笑い番組への批判や、18年の雑誌「SPA!」への大学生を中心とした抗議運動等からもわかる。
女性やさまざまな立場の人が求めるメディアとは何か。そうした問題意識から女性ジャーナリストや研究者が横につながり、発足したのが、MeDi(メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会)だ。本書ではメンバーの著者らがそれぞれジェンダーと多様性の視点から、現状と課題を語っている。真に必要なメディアとは何か、私たちにできることも考えたい。(梅)
日本のなかの朝鮮 金達寿(キムダルス)伝
廣瀬陽一 著
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- 日本のなかの朝鮮 金達寿(キムダルス)伝
- 廣瀬陽一 著
- クレイン2300円
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金達寿は、戦後の日本社会と在日朝鮮人社会にまたがって活躍した。前半生では、『玄界灘』などの文学作品を発表、在日朝鮮人文学の分野を拓いた。50歳前後からは『日本の中の朝鮮文化』などの古代史研究で日本全国を歩き、多くの古代文化遺産が朝鮮半島からの「渡来人」によって遺されたことを著した。
金達寿の一家は日本の植民地支配に土地を奪われ、離散。10歳の金達寿は兄と2人で「内地」日本に渡るが、ほとんど学校にも行けず屑屋の仕事で糊口をしのぎつつ学び、文学を志した。金達寿の活動の目的は、「日本と朝鮮、日本人と朝鮮人の関係を人間的なものにする」ことだったという。
近年、日本に暮らす外国人が増加、「共生の時代」などと言われるが、著者は、「日本人と在日朝鮮人が戦後に限っても70年以上共に暮らした歴史を忘れて、今さら外国人との新たな共生を声高に唱えるのは歴史事実の忘却」と警鐘を鳴らす。(公)