8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語
黒川祥子 著
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8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語
- 黒川祥子 著
- 集英社1500円
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それは凄まじい光景だっただろう。天井にまで届くほど積み上げられた弁当容器、何年も洗われないままの寝具、ベッドにまで押し寄せるゴミ…。冒頭に紹介される、ある女性の部屋である。
「ひきこもり」といわれる50代の子と、80代を迎える親で構成される世帯が、近年注目されている。他人事ではない。新しい家族が郊外に家を買い、希望ある未来を信じた1970年代に育った私もほぼ同世代として身につまされる。
強過ぎる父。母に食い尽くされたと感じるかつての優等生。経済的搾取をし続ける息子と母の共依存。「ごく普通に」と育てられたはずの娘の喪われた20年etc。どの家にも、「恥」を抱え込み、隠し続けた数十年の苦しみがある。
50代の彼らがまだ若者であったころ、国の支援策がほぼ皆無であったのは悔やまれる。著者は巻末で、中高年の彼らの「居場所」を提案している。「就労」だけではない多様な人生の選択肢を模索したいと感じた。(梅)
少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて
佐々木くみ、エマニュエル・アルノー 著
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- 少女だった私に起きた、電車のなかでのすべてについて
- 佐々木くみ、エマニュエル・アルノー 著
- イースト・プレス1600円
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在仏日本人女性(佐々木、33歳)が十数年前に受けた電車内での痴漢被害の実態を、仏人アルノーが書き起こした小説。#MeTooが席巻する2017年に仏で刊行されるや話題になり、本書は邦訳版だ。
12歳の日本の中学生佐々木は、制服を着て電車通学するだけで、連日痴漢被害に遭った。恐怖感、不快感、嫌悪感、屈辱感…しかし母親に「あなたが悪い」と言われ、学校も周りの大人も助けてくれない。繰り返される被害に自尊心が削られ、絶望から自殺を考えて―。
「痴漢は犯罪」。誰もが知る言葉だが、「痴漢」を「遊び」として享受してきた男性優位の世の中はもちろん、#MeTooの動きの中でも話題になることが少なく、被害が日常化しているがゆえに「痴漢」=被害が軽い、という偏見も。本書はその偏見を見事に覆し、長年押し込めてきた私自身の痴漢に遭った時の生々しい感情も蘇った。本書は痴漢被害者の#MeTooだ。と同時に徹底した対策を促す仏発の告発の書でもある。(智)
あいちトリエンナーレ「展示中止」事件 表現の不自由と日本
岡本有佳、アライ=ヒロユキ 編
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- あいちトリエンナーレ「展示中止」事件 表現の不自由と日本
- 岡本有佳、アライ=ヒロユキ 編
- 岩波書店1800円
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「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」。政治家の発言と抗議の電話などで、開催から3日で中止になった。本書はこの展示中止をめぐって、さまざまな人が考察し、「事件」を多角的に捉えた一冊だ。
2章は不自由展の実行委員で、編者の一人(岡本)の渾身の記録。大手メディアがほとんど伝えていなかった、不自由展実行委員とトリエンナーレ実行委員会(会長は大村秀章愛知県知事、芸術監督は津田大介)との顛末などが詳細に記され、多くの問題を提起。日本軍「慰安婦」や「天皇と戦争」を表現した作品への妨害を予想し、不自由展の実行委員が対策方法を提案しても対策が取られず、公権力による干渉・歴史認識と暴力への批判の不徹底、報道規制もあった。展示中止を検閲と認識する海外作家と、津田監督や多くの日本人作家との検閲をめぐる認識の落差も浮き彫りに…。深刻な問題を孕んでいたこの事件は何度も検証すべきと思う。(ぱ)