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ふぇみんの書評

オリンピックの終わりの始まり

谷口源太郎 著

    オリンピックの終わりの始まり
  • 谷口源太郎 著
  • コモンズ1800円
 著者は社会的視点からスポーツを批評する稀有なジャーナリストだ。本書は戦後の五輪批判から始まり、「平和の祭典」とされる五輪がいかに戦争に屈服させられたかを語る。五輪に対抗する「新興国競技大会」(1963年)開催の話も興味深い。冷戦体制下のモスクワ大会ボイコット等を経て、84年のロス五輪以後はマネーファースト・金満体質五輪へ。政治・経済のありようと五輪は深く結びつく。後半は「復興五輪」を銘打つ2020年東京五輪批判を全面展開。聖火リレーの出発地点を福島・Jビレッジに決め、「復興」を演出する政府の欺瞞を撃つ。  著者は、最後に安部公房の『方舟さくら丸』(84年)中の「オリンピック阻止同盟」を紹介する。「筋肉礼賛反対! ビタミン剤反対! 国旗掲揚反対!」が彼らのスローガン。国旗発揚・国家主義・勝利至上主義が近代スポーツをダメにしたと著者は書く。2020東京オリ・パラ反対運動に現代の「阻止同盟」たれと期待するエールを感じた。(の)

トリニティ、トリニティ、トリニティ

小林エリカ 著

  • トリニティ、トリニティ、トリニティ
  • 小林エリカ 著
  • 集英社1700円
監視社会を描いたG・オーウェルの『1984』など、小説で現実社会を鋭く照射する作品があるが、本書もまさに。マルチアーティストの著者による近未来小説だ。  舞台は2020年、五輪に熱狂する東京。高齢者の間で認知症に似た奇病「トリニティ」が流行る。罹患すると放射性物質を含んだ石に執着し、放射性物質を人類が発見して以降の史実を自らに憑依させ、放射性物質を使ったテロにも走る。「トリニティ」に罹った母の独白で始まり、母のテロを怖れる娘の「私」と、「私」の娘。ここは福島原発事故を完全に忘れた社会。放射能の存在を露わにするトリニティ患者や福島原発事故にまともに向き合う人に、「私」を含めた社会は「自分とは完全に違う人」とし憎悪と敵意を剥き出しにする。しかし「私」にもトリニティが―。  まき散らされたが目に見えない放射能に形を与え、読み手の鈍感さや欺瞞をあぶり出し、核利用という人類の原罪も問う。今こそ読みたい一冊。(登)

ぼけますから、よろしくお願いします。

信友直子 著

  • ぼけますから、よろしくお願いします。
  • 信友直子 著
  • 新潮社1364円
著者は、テレビのドキュメンタリー番組などを手掛ける映像ディレクター。広島・呉市に住む父親と認知症の母親を撮影したテレビ番組は、反響を呼び、2018年に映画化された(著者は監督に)。映画は数々の賞をとり、今も上映が続く。映画と同名の本書は、撮影の裏話ほか、ひとり娘から見た「老老介護」と遠距離介護の状況や、両親への思いなどを赤裸々に語る。内容は深刻だが語り口は軽妙で、映画もおもしろかったが、映像とはまた違う趣の家族の物語に引き込まれた。  認知症当事者の母親の苦悩、介護のため仕事をやめるかと悩む娘、娘の仕事を誇りにする父親…。さまざまな葛藤、人間の尊厳を守るための介護のあり方など、考えさせられることが多かった。家族も人も自分自身も“変わる”ことには戸惑いがあるかもしれない。が、認知症は自分を縛っているものからの解放と思えるように、変化する人間や人の絆の愛おしさを感じて胸がいっぱいになった。(り)
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