画家たちの戦争責任 藤田嗣治の「アッツ島玉砕」をとおして考える
北村小夜 著
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画家たちの戦争責任 藤田嗣治の「アッツ島玉砕」をとおして考える
- 北村小夜 著
- 梨の木舎1700円
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太平洋戦争中、陸軍美術協会の藤田嗣治は「アッツ島玉砕」などの戦争画を描いた。戦後、マスコミや日本美術協会から「戦犯画家」として追及されたが、海外に逃れてしまい、責任はうやむやになった。著者は藤田を中心に画家の戦争責任を厳しく追及する。
兵士たちの凄惨さが描かれた「アッツ島玉砕」は、見方によって反戦画に思われることもある。だが、1925年生まれの著者は、当時多くの人はこの絵を前に“仇討ち”を誓い、(藤田の意図通りに)「戦意高揚」に使われたという。どんな目的で描かれた絵なのか。どんな絵がどんな社会の時にどう
使われるのか。絵や音楽など芸術が戦争や愛国心に利用される側面を説き、美術館に眠る戦争画を全面公開し、検証すべきと唱える。軍国少女として育ち、戦争に加担したという強い自責から、反戦・教育運動を続ける著者の信念の訴えを重く受け止めたい。(う)
- 日本のヤバい女の子 静かなる抵抗
- はらだ有彩 著
- 柏書房1400円
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今だって女はこんなに生きづらいのに、1000年も前の女の子はどう生きていたんだ? 文・イラスト、布地づくりのアーティストの著者が、昔話を紐解き、そこに出てくるいろんな意味で「ヤバい」女の子たちの秘めた怒りや生命力を明らかにしてしまおうというシリーズの第2弾。
嫉妬のあまり、恋敵をはじめ関係ない人まで呪い殺すに至る「宇治の橋姫」。嫉妬深いことと女は結びつけられ、異形になることも否定的に伝えられる。でも著者は、そもそも嫉妬は「生命力溢れるもがき」ではないか、異形になって暴れ回りたいことってあるよね、と橋姫の肩をぽんぽんと叩く。「ちょうふく山の山姥」に人間の婆との友情を、恋するあまり石になった「松浦佐用姫」に静かなる抵抗を見る。
女友達と気の置けない本音トークをした後に、元気になる感覚。理不尽な環境下で女の子たちは静かに、確実に怒ってきたし、生き抜いてきた。私と同じく。(登)
紛争地域から生まれた演劇
国際演劇協会日本センター 編
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- 紛争地域から生まれた演劇
- 国際演劇協会日本センター 編
- ひつじ書房3600円
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戦争や内戦下に生きることは、平時では理解し難い痛みを伴う。演劇が、そんな「紛争」に対してできることを模索する試みが一冊にまとまった。
国際演劇協会は戦後の欧州で誕生した舞台芸術ネットワーク。日本の編者らが始めた「紛争地域から生まれた演劇」シリーズは、紛争に関わる戯曲のリーディングと関連イベントを行い、10年を迎えた。30人近い関係者が、戯曲やその背景を解説し、数本の戯曲も紹介される。「第三世代」は、現在のパレスチナへの弾圧とホロコーストの歴史を描く。ウィットある台詞が悲劇を際立たせる。イランの作品「白いウサギ、赤いウサギ」は、役者が一生に一度しか演ずることが許されず、台本も上演直前に手渡されるという斬新さ。英国による豪州での核実験を問う「ナパジ・ナパジ」は原発事故を経験した日本の私たちに突き刺さる。
「演劇の力」で演劇人が想像力を刺激されたように、私たちも紛争に無関心ではいられない。(三)