シリア 震える橋を渡って 人びとは語る
ウェンディ・パールマン 著 安田菜津紀 佐藤慧 訳
|
シリア 震える橋を渡って 人びとは語る
- ウェンディ・パールマン 著 安田菜津紀 佐藤慧 訳
- 岩波書店3200円
|
|
2011年に起こった民衆の抗議活動では、宗教や立場を超えて人々は各地の広場に出て「自由を!」と叫んだ。ダマスカスでは、10万人以上が集まり、「人々が橋を渡った時、そのあまりの人数に足元の橋が震えていた」とある医師は語る。震える橋を渡った人たちはどこへ行ったのか。
米国の中東研究者である著者は、12年から約5年、ヨルダンやトルコ、レバノン、欧州で多くのシリア人にインタビューを重ね、その中から90人近くの語りをまとめた。人々が祖国を去らざるをえなかった歴史の軌跡がここにある。
彼らの語りに胸が詰まる。だが、彼らは夢や希望を捨てたわけではない。日本版への序文で、著者は私たちがシリアの人々の希望と連帯してできることはたくさんあると具体的な例を挙げる。最も必要なことは、今後アサド政権が自分たちに都合のいい紛争の歴史を書こうとすることに対し、シリアの人々の声に耳を傾けることだと著者は言う。(ね)
本屋がアジアをつなぐ 自由を支える者たち
石橋毅史 著
|
- 本屋がアジアをつなぐ 自由を支える者たち
- 石橋毅史 著
- ころから1700円
|
|
本を売る店を「書店」、本を売ることを生業とする人を「本屋」、と呼ぶ著者が、本屋を探して日本国内、韓国、香港、台湾と中国・上海を歩き対話した渾身の書。本屋から、社会と暮らしがクローズアップされる。驚いたのは、台湾・台北の24時間営業の本屋だ。深夜、床に座り込んでスマホではなく、本を読みふける人がいる。
圧倒的な存在感を放つのは、韓国・光州やソウルなど、民主的な社会を熱望する学生や市民を支えた本屋と店主の存在だ。香港では中国批判本を並べ、中国本土へも送っていた銅鑼湾書店が、関係者らの「失踪」で閉店。台北で著者は関係者に会う。東京の韓国ブックカフェ・チェッコリや沖縄・那覇の古本屋ウララの、飄々と生きる女性の店主も個性的で会ってみたくなる。ウララ店主は店の展開に悩みつつ、筋を通す。
本が売れないと言われる昨今だが、個性を打ち出す小さい本屋が好まれているのも事実。本屋を守る意義がわかる。(三)
- ザ・ソウル・オブくず屋
- 東龍夫 著
- コモンズ1700円
|
|
再生資源を回収する仕事は歴史が古く、平安時代に古紙の回収・再生が記録されているという。札幌で資源回収の仕事を40年続けて残念ながら昨秋亡くなった著者は、地域の資源を地域で活かす循環型社会の一翼を担うことに誇りを持ち、「くず屋」は公共性の高い仕事と自負していた。仕事では行政や福祉と連携し、障がい者と一緒に働くことで共生社会を目指し、共同保育を実践、天ぷら油のリサイクルに取り組み、リオの地球サミットで使い捨て社会を変えようと訴える幅広い活動ぶりなのだった。
近年、収集所に置かれたアルミ缶を拾うと罰金を科す自治体が増えているが、生活困窮者が缶を拾って生きられる寛容な社会があってもよいのではと説く著者に目を開かれる思いだ。本書を読んでいると、SDGs(持続可能な社会を作るための目標)を実現する仕事は「くず屋」と納得できる。食べ物を捨てる無駄に嘆き、千年のゴミ・プラスチック、万年のゴミ・放射能に悩む姿に、熱い「くず屋」の魂を見た。(公)