この星は、私の星じゃない
- 田中美津 著
- 岩波書店2400円
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1970年代のウーマンリブ運動を牽引した著者によるエッセイや対談、往復書簡を収録した書。
著者がどのように生き、そして3.11後の今をどのように見ているのか。さまざまな語りを通じ、リブから40年余を経た「今」という時代を考えることができる。
著者の世界を形づくった要因の一つは、当時は無自覚ではあったが幼少期の性的虐待や、「虚弱であること」。現在は、沖縄の苦しみに気づかなかった自分への、「恥を伴う痛み」ゆえに、著者は自ら辺野古へと足を運ぶ。そんな田中美津という生き方を通して、私たちは、痛みや切なさが、物事を変える力にもなるのだと気づく。
「女であること」には苦しみや怒りが伴う、けれど、女たちが互いに思いを共有し、違いを発見し、言葉をぶつけ合うことから生まれるエネルギーは大きい。リブの女性たちがつくった道を、私もまた歩いているのだと、勇気をもらえる一冊だった。同名のドキュメンタリー映画もぜひ観たい。(梅)
- 菜の花の沖縄日記
- 坂本菜の花 著
- ヘウレーカ1600円
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1999年生まれの著者は、15歳で故郷の石川県から沖縄・那覇へ、小規模な無認可学校「珊瑚舎スコーレ」の高等部に進学するために単身転居した。本書は、スコーレの日々を綴った新聞の連載コラムをまとめたもの。
中学の修学旅行で沖縄へ行って以来、沖縄のことをもっと知りたいと選んだ進学先だった。夜間部もあって、戦争で学ぶ機会を逸したおばあやおじいから、世代を超えた話を聞ける環境だったのも魅力的だし、教員も個性的。平和や基地や人権のこと、生きることの哲学、伝統文化などを学び、“秘密基地”を作ったりのワクワクした3年間。
さまざまな立場の人々と、基地問題などたくさんの議論をした。時に大ゲンカし、自分が「正しさ」を押し付けたり、意見の違う人を排除していたと気付き、意見が異なる人と関わりたいと思えるように。著者が沖縄や世界と向きあう時の姿勢やまなざし、瑞々しい感性を通して私たちもまた沖縄に出会い直したくなる。(三)
この国の不寛容の果てに 相模原事件と私たちの時代
雨宮処凛 編著
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- この国の不寛容の果てに 相模原事件と私たちの時代
- 雨宮処凛 編著
- 大月書店1600円
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本書の編著者である雨宮は、相模原事件(津久井やまゆり園にて19人殺害)の植松被告の背景にはロスジェネ世代にも共通するような、さまざまなものを奪われてきた「剥奪感」が垣間見えるという。その視点と共に雨宮自身が抱く「内なる植松」という問題意識を軸に、植松被告と面会を重ねた放送記者、当事者研究で知られる熊谷晋一郎、北海道の精神障害者の活動拠点「べてるの家」のソーシャルワーカー、向谷地生良らと1対1で語り合った対談集だ。
雨宮の問いは1990年代後半以降の精神医療、貧困、労働など社会の深刻な問題の各論へと向かい、各対談者とともに真摯に丁寧に掘り起こしていく。
このネット社会の中で植松被告は自分が発した言葉によって社会が揺らぐことに“存在証明”を見出す面を持ち、またその言葉は“本音”であっても“本心”ではないという。本書でも語られる当事者研究とオープンダイアローグがこの“本心”を探るための一歩かもしれない。(え)