日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年
山本章子 著
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日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年
- 山本章子 著
- 中央公論新社840円
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日米地位協定は、米軍関連事故・事件のたびに繰り返し問題となってきた。しかし、日本政府は「運用の改善」で対応するとして一度も改定されず今日に至る。
本書は、日米安保体制の成立、1960年の安保改定と地位協定締結、ベトナム戦争と米軍、沖縄の米軍基地、思いやり予算の膨張など、日米地位協定の歴史を詳しく追いながら、なぜ現状のような運用が行われているのか、その問題点を考察する。さらに独・伊の地位協定との比較なども行う。
現状では協定の改定は容易ではないが、まずは「日米地位協定合意議事録」の存在を広く知らせ、撤廃の議論を深めることが必要と著者はいう。「合意議事録」は、地位協定と共に日米両政府が取り交わした文書で、在日米軍の特権の根幹にかかわる条項の解釈を決め、運用されながら、長く非公開だった。
今問われるのは国の安全保障観であり、それを支える世論だという著者の指摘を深く胸に刻まざるを得ない。(ね)
三つ編み
レティシア・コロンバニ 著 齋藤可津子 訳
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- 三つ編み
- レティシア・コロンバニ 著 齋藤可津子 訳
- 早川書房1600円
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著者は映画監督で、初めての本小説が2017年夏、フランスでベストセラーになった。三つ編みのごとく、髪にまつわる3人の女性の人生が、映像が浮かび上がるように織り上げられる。
スミタはインドの被差別民ダリットで、過酷な仕事が宿命だ。イタリア・シチリア島のジュリアは気心の知れた女性たちと家業に精を出す日々を送っていたが…。カナダの都会で、日常を犠牲にして社会的成功に邁進するサラは、シングルマザー。スミタは娘を学校に通わせたいと心を砕き、夫を説得するのがこの物語の発端になる。少しでも人間らしい将来が拓けるようにと願う、スミタの必死の思いと大胆な行動が胸に響く。ジュリアもサラも、困難に直面し…。
3筋の物語が少しずつ、順々に展開されていき、次はどうなってしまうの?と気が気でならない。読み進めるほどに息苦しくなり、そして3人が絡み合う大転換へ。
32カ国語に翻訳され、世界中の女性が共感。あなたもぜひ。(三)
教育と愛国 誰が教室を窒息させるのか
斉加尚代、毎日放送映像取材班 著
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- 教育と愛国 誰が教室を窒息させるのか
- 斉加尚代、毎日放送映像取材班 著
- 岩波書店1700円
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教科書とは本来、子どもたちが明日の主権者となるべく学び、考えるための礎となるべきもののはず。それが、ある特定の思惑の下、捻じ曲げられ、不当な方向へと子どもたちを導くために使われているとしたら、これほど恐ろしいことはない。
本書は、ギャラクシー賞大賞を受賞したドキュメンタリー番組『映像 ’17教育と愛国 教科書でいま何が起きているのか』を書籍化した第1部と、番組ディレクターの斉加尚代さんが大阪で取材を重ねた報告の第2部とで構成されている。大阪は、ご存じのように橋下徹市長時代の2008年以降、君が代「口元チェック」や「ゼロ・トレランス(不寛容)」とどんどん締め付けが厳しくなり、心ある教師たちは追いつめられてきた。
民主的な教科書を使おうとした学校に、大量に送りつけられる抗議のハガキ。書いた人は、自分が何に抗議しているのか理解していない。今起きていることを、私たちは知らなければならない。(順)