ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか
レイチェル・ギーザ 著 冨田直子 訳
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ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか
- レイチェル・ギーザ 著 冨田直子 訳
- DU BOOKS 2800円
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#Metooが世界を席巻している今、「男らしさ」の有害性については論を待たない。でもこれまで私たちは女の子のエンパワーメントに力を入れてきたが、男の子の内面は顧みてこなかった。一方「男脳・女脳」の“エセ科学”も横行し、男の子の抱える問題は「男の子だから」と放置されてきた。
本書はカナダ在住のレズビアンで、先住民族の血を引く男の子を養子に迎えた著者が、男の子が「男らしさ」をどう身につけ、作用するのかを、教育、スポーツ、ゲーム、セックスの観点から迫るルポ。浮かび上がるのは男の子自身も「男らしさ」に閉じ込められ苦しんでいることだ(孤立、いじめ加害、暴力的な性、DV)。そこに人種、階級の問題も複雑に絡み合う。
のびのびと優しい「男らしさ」を身につけさせるさまざまな実践者たちも紹介され、その効果に驚く。何より男の子の声を聞き学ぶことが重要、と著者。私たちが共に向かうべき未来、大人の役割を発見させてくれる。(登)
奪われたクリムト マリアが「黄金のアデーレ」を取り戻すまで
エリザベート・ザントマン 著 永井潤子・浜田和子 訳
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- 奪われたクリムト マリアが「黄金のアデーレ」を取り戻すまで
- エリザベート・ザントマン 著 永井潤子・浜田和子 訳
- 梨の木舎2200円
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グスタフ・クリムトが1907年に描いた「黄金の女性」として知られる肖像画「アデーレ・ブロッホ=バウアーⅠ」は、ナチによるユダヤ人所有物の「略奪美術」だった。肖像画の本人アデーレと夫は絵の所有者で、彼女らの遺産相続人の1人であるアメリカに亡命した姪のマリア・アルトマンが、アメリカの最高裁判所に、絵の返還を求めオーストリア国家を訴えた。2006年、絵はアデーレと夫の遺産相続人に返還しなければならないという決定が下る。本書は絵を取り戻すために闘ったマリアを中心に描く。
返還を求めて行動を始めた時はすでに80歳を超えていたマリア。アデーレは、保守的なウィーンで、経済的にも精神的にも自立して暮らし、社会規範に縛られない女性だったという。2人の女性のドラマチックでたくましい物語に心が躍った。
「略奪美術」について「訳者あとがき」で日本のことが触れられていた。日本が他国から奪ってきた物を思うと胸が痛い。(ク)
団地と移民 課題最先端「空間」の闘い
安田浩一 著
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- 団地と移民 課題最先端「空間」の闘い
- 安田浩一 著
- KADOKAWA 1600円
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初期の公営団地は、戦後の住宅難解消などを目的に建てられた。各地の団地を訪れ、その過去と現在を著者は考察する。
芝園団地(埼玉県)、保見団地(愛知県)、広島市の基町アパートなどが登場。かつて若い家族の入居で賑わった団地は、高度成長を経て高齢化が進んだ。まるで「限界集落」だ。そこへ外国人が移住し、コミュニティーが変化。公営団地は国籍を問われずに入居できるためだ。そして生まれた旧住民と新住民間の軋轢。加えて外国人排斥のヘイトが起きた地域も出た。
軋轢は「ごみ問題」が端緒だという。旧住人が対策に立ち上がった。パリ郊外の団地も旧植民地からの移住者が増え、「テロの予備軍」を育てると差別が高まり、地域住民の模索が始まったという。
たそがれた地域を活性化するのは、移民である新住民に鍵があると著者は考える。多文化共生の最前線、壮大な実験場として、団地はいま、新しい局面に向かっている。興味深い一冊。(三)