父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい 経済の話。
ヤニス・バルファキス 著 関美和 訳
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父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい 経済の話。
- ヤニス・バルファキス 著 関美和 訳
- ダイヤモンド社1500円
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本書は、ギリシャ経済危機の際に財務相を務めた経済学者が、経済の本質について自分の10代の娘に語るために書かれた。専門用語を使わない平易な語り口は、経済の専門家がまことしやかに経済について述べるのとは対極的だ。
人類の歴史を経済の視点からみるとき、現代に生きる我々がいかに市場(資本主義)社会の枠組みに囚われ、安っぽい快楽に誘惑されているか、本書はその「外の世界」の視点に改めて気付かせてくれる。市場社会が提供できるのは現時点で我々が“望んでいるもの”だけ。そこでは全てが商品化され格差はますます拡大していく。抗う唯一の解決策は「経済の民主化」だという。経済が信用で成り立つ以上、そこには必ず人の営みが関与する。だからこそ、誰もが経済についての意見をもつことが民主主義の土台となるという。経済を語ることは誰もが社会を変える可能性を手に入れることである。(ゆ)
居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書
東畑開人 著
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- 居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書
- 東畑開人 著
- 医学書院2000円
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臨床心理士としてカウンセリングを実践する意気込みの著者が就職したのは沖縄の精神科デイケア。そこで待っていたのは、心の病をかかえた利用者さんをワゴンで送迎したり、レクリエーションのソフトボールで炎天下のグランドを走りまわる毎日だった。何かが違うと感じた。時間が淀んだようなデイケアの場に、利用者さんたちとただ「居る」ことにもとまどった。そんな著者が、デイケアの日常の中で利用者さんやスタッフとふれあい、騒動を起こすうちに変わっていく。デイケアでぐるぐる回る円環的時間の中に「居る」ことを楽しむようになる。筆者も読んでいて、南国の風に吹かれてデイケアに「居る」気分になった。
デイケアの出来事を素材に、ユング、フロイト、國分功一郎などの論文が噛み砕いて解説される。アニメやファンタジーの引用が散りばめられ、学術書とは思えない読みやすさ。帯に書かれた「大感動のスペクタクル学術書!」の文句に偽りはない。(公)
- イランの家めし、いただきます!
- 常見藤代 著
- 産業編集センター1100円
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著者は「イスラム・エスノグラファー」を自認する写真家。エスノグラファーとは現地の社会に入り込み、見聞きした生活や文化を記録する人、という意味で、著者は中でもイスラム社会に特化し活動している。本書を読み進むと、著者の好奇心旺盛な様子が伝わり、共に旅をしている気分になる。
著者はイラン国内の主な移動手段としてヒッチハイクを敢行! 本人も読み手もはらはらするような展開を経て、なぜか最終的にイランの一般家庭にお世話になり、共に食卓を囲み、語り、一つ屋根の下で眠る。特に興味深いのはイラン女性らとの交流で、教育、結婚観、赤裸々な性の話題を通し、「イスラム女性は厳格な社会で抑圧されているのでは?」という我々の勝手な先入観を鮮やかに覆す。言葉は通じなくとも、しなやかにイラン女性の「今」に切り込んでいく著者の姿には目を見張る。登場するレシピ付きのイラン家庭料理の数々も魅力的で、すぐにでも真似したくなるものばかり!(タ)