「社会を変えよう」といわれたら
- 木下ちがや 著
- 大月書店1600円
|
|
「安倍政権はこんなに酷いことをやっているのになぜ倒れないのか」。ふぇみん読者なら何百回も頭をよぎったであろうこの言葉に、著者は「酷すぎるから倒れない」と書く。安倍政権は、政権維持のために国会だけでなく自民党の機能まで壊した。かつては政・官・財のバランスの上に成り立った自民党政権だったが、今や政治資金から官僚人事まで、官邸が生殺与奪の権利を握るという「非常識な支配」が続いているからだ。
本書は、戦後の社会運動がどのように変遷してきたかを整理し、さらに3.11以降、社会運動と日本がどう変わり、どこへ向かおうとしているかが柔らかい筆致で描かれる。終盤では2018年の沖縄県知事選がいかに行われたかを活写。玉城知事勝利という結果より、沖縄の人々が「何を守り、何をなくすべきか」、運動の中で考えたプロセスから学ぶべきと説く。
「社会が変わらない」と落ち込まず、向かうべき先の明るさを感じる気鋭の政治学者の一冊。(公)
掃除で心は磨けるのか いま、学校で起きている奇妙なこと
杉原里美 著
|
- 掃除で心は磨けるのか いま、学校で起きている奇妙なこと
- 杉原里美 著
- 筑摩書房1500円
|
|
「素手でトイレ掃除」「マナーキッズ」「○○しぐさ」「志教育」…。本書は、朝日新聞記者の著者が学校現場に浸透しつつある“奇妙なこと”を追い、その源泉に迫るルポ連載に加筆などをしたもの。
「心を磨く」と全ての問題が解決するとばかりに、検証なしに学校に取り入れられていく。推進者を著者が追うと、戦後民主主義を悪と見なし、「美しい日本」を誇り、「憲法改正」を主張する、右派の政治家、経済人、市民に行き当たる。ただでさえ10年前よりも?従順になった”子どもたち。?ブラック校則”や「道徳」も相まって、できあがるのは自助精神と公共心を大いに備えた、経済界と国家に必要な人材。魔の手は「親学」を通じて家庭にも伸び始め―。
恐ろしいのは、一つ一つの事柄を見れば、「悪くないかも」と思うものもあること。だから学校を注視し、自分の頭で考え声を上げようと著者。まずは私たち大人、なのだ。奇妙なことを奇妙だと言わないといけないのは。(登)
- 吃音 伝えられないもどかしさ
- 近藤雄生 著
- 新潮社1500円
|
|
吃音(どもること)を持つ人は100人に1人と言われている。著者も吃音に悩んだことから、多くの人に取材し、本書を書き上げた。
冒頭から衝撃を受ける。いじめは吃音者にとって深刻だ。不登校や退職、死さえ選択するほどに社会生活を困難にする。しかしその原因はいまだに解明されておらず、さまざまな混乱も起きる。
また、克服しようとする模索や血の滲むような努力が、当事者に過重な負担をかける。治療方法は多いが、そもそも治療すべきものなのかと問う。障害者認定を受けるべきか、その場合、身体障害なのか精神障害なのか。吃音を苦に自死した子どもの遺族の悩み。何人もの経験から、吃音と社会の溝を明らかにする。回復者の経験談、当事者団体の試みに希望を感じる。
吃音の問題は他者が介在して顕在化する。だからこそ社会の理解が重要だと著者は説く。「もどかしさ」を許容できない、寛容さを欠いた社会のあり方を顧みなければと思う。(三)