「銃後史」をあるく
- 加納実紀代 著
- インパクト出版会3000円
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重要な著作を発表し続けてきた女性史家による1979年から最近までの文章をまとめた論集。著者逝去の報に、しんみりとしてページを繰り始めた。実に迂闊だった。
冒頭のエッセイで語られるのは、死体の転がる原子野でさえ遊びを見出していた幼い子どもの記憶。鳩尾をえぐられる衝撃に思わず唸る。そうだった。加納さんというひとは、明晴な言葉で、とてつもなく恐ろしい問いを投げこむひとだったのだ。
「慰安婦」支援運動は女たちを二度殺してはいないかと問い、戦前の「家の光」誌に見える政治的無関心とプラクティカルな経済主義は「農民ファシズム化の『素地』であると同時に、それ自体ファシズムであるというべきだろう」と喝破する。
女たちの「銃後」責任、「総撤退論」など重要な論争を起こしてきたのは、正しいことを言おうとする卑しさなど一片もない姿勢ゆえだった。その真っ直ぐな問いの力こそ、今のフェミニズムに必要なものだろう。(M)
シニアシングルズ 女たちの知恵と縁
大矢さよ子、湯澤直美 編
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- シニアシングルズ 女たちの知恵と縁
- 大矢さよ子、湯澤直美 編
- 大月書店1800円
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2014年発足の中高年シングル女性たちのグループ「わくわくシニアシングルズ」が、16年、50歳以上のシングル女性の調査を実施。本書はその調査結果や女性たちの経験がつづられている。
本書から見えるのは、シングルマザーや単身高齢女性の生活のたいへんさ。アンケート調査では、非正規雇用率が半数を超え、約69%が「働ける限りはいつまでも(働く)」と答え、生計が成り立つ賃金や年金がほしいという切実な声が上がっている。とはいえ本書はさまざまな困難を乗り切るための具体策も豊富。どんな問題があるかがわかりやすく提示され、今困っている人も将来の生活設計を
考えている人にも心強い助けになろう。
本書を読んで、日本がいまだに「夫婦と子どもからなる世帯」を標準世帯として税や社会保障・雇用の仕組みがつくられていることに、改めて憤りを感じる。どんな生き方を選んでも安心して暮らせる制度を目指し、立場を超え連帯して声を上げていこう。(は)
- 障害者の傷、介助者の痛み
- 渡邉琢 著
- 青土社2200円
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2000年から京都の障害当事者組織「日本自立生活センター」で介助者として働く著者が、介助現場で丹念に紡ぎ編んだ、10~18年の思索と言葉がぎっしり詰まっている。介助現場のリアルから、同組織が今抱える課題、今後のベクトルまで、言葉にされてこなかった事柄に明確な形を与え、まさに正鵠を射る内容だ。
10年代前半に制度や理念上ではある程度達成された障害者自立生活運動。「ポスト自立生活運動」の障害者・健常者双方の変化と戸惑い、現場の権力構造や痛みが詳細に綴られる。運動が取りこぼしてきた知的・精神障害者の自立生活支援に日々取り組む中で出会う、きれい事でない現実も。特に発作的暴力行為に陥る重度知的障害者の介助の困難さや施設入居者の失語を、J・ハーマンの「トラウマ」概念で理解する章は目を開かれた。
今後の希望は「つながりの回復」か。障害者運動の進展は高齢者介護にもインパクトを与えうる。そんな広がりを持つ本だ。(登)