出版の崩壊とアマゾン 出版再販制度〈四◯年〉の攻防
高須次郎 著
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出版の崩壊とアマゾン 出版再販制度〈四◯年〉の攻防
- 高須次郎 著
- 論創社2200円
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本は全国どこでも同じ定価で値引きはない。この出版再販制度が日本の豊かな出版文化を守り、表現・出版の自由を支えてきたと著者は書く。1978年に公正取引委員長が同制度の廃止発言をしてから40年、出版再販制度はからくも守られてきたが、本・雑誌の売上高は「きりもみ状態」で下落。
そんななか2000年に日本上陸したアマゾンは今や売上高日本一の“書店”だが、米国の会社だとして日本の消費税も法人税も払ってはいない。アマゾンが無料配送やポイントサービスで実質的に再販制度を無視する売り方をすれば、納税している一般書店は太刀打ちできない。ドイツ・フランスは日本と同様の書籍再販制度を持つが、堅持・強化しているし、フランスではネット書店の無料配送禁止の「反アマゾン法」も制定された。
著者は「新自由主義の波の中で無秩序で不公平な社会が作られてきた」と警鐘を鳴らし、電子本の再販制度化など出版崩壊を防ぐ処方箋を訴える。(公)
アメリカ死にかけ物語
リン・ディン 著 小澤身和子 訳
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- アメリカ死にかけ物語
- リン・ディン 著 小澤身和子 訳
- 河出書房新社3200円
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著者はベトナム生まれで米国に移住した詩人。2013年から15年の間に、米国内を長距離バスや電車を乗り継いで行った先の安いバーや路上で出会った人々の声を丹念に拾った。かれらは、バーテンダー、建設・工場労働者、清掃員、売春婦、ホームレス、退役軍人など「底辺の大多数の人々」。その後トランプ大統領を誕生させた「惨めな人」とも糾弾された。
著者はビールや軽口を交わしながら聞く。調子はどうだい?と。グローバリズムを背景に、産業や地域が廃れ、借金を背負った大卒者が「クソみたいな仕事」を取り合い、貧困が蔓延し、病気やケガの保険や補償はなく、薬中・アル中・暴力が蔓延、そこかしこに米軍勧誘の罠が仕掛けられる。しかしメディアは豊かな米国を喧伝する。
著者は、かれらの生命を瞬間あたたかく照らしだし、徹底して底辺の視点から米国の病の原因を見据える。かれらの姿は近い将来の私たちでは? 川上未映子のエッセイも収録。(登)
集まると使える 80年代 運動の中の演劇と演劇の中の運動
羽鳥嘉郎 著
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- 集まると使える 80年代 運動の中の演劇と演劇の中の運動
- 羽鳥嘉郎 著
- ころから2300円
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1989年生まれの演出家であり、立教大学映像身体学科の教員である著者が、アマチュア演劇と運動の結びつきをテーマに、「身体障害」「学芸会」「第三世界」「解放運動」「ジェンダー」などといった8つの社会問題と演劇についての談話を紹介し、1980年代の演劇論を改めて再考する一冊。
著者自身の論考はほとんど語られることがなく、各分野の専門家の談話が次々と列挙されていくスタイルに当初は戸惑ったが、身体障害者として舞台に立つ金滿里氏の談話から、運動と演劇が結びつくことで、観衆の立場として新たな観劇の視点が生まれ、世界が広がるのかもしれない、と感じた。
そしてそれぞれの分野の談話を読み進めるうちに「なぜ羽鳥氏がこれらの談話を取り上げたのか?」ということに思い至る。この書籍を通じて、演劇と運動の結びつきについて羽鳥氏が投じた一石を、今後の日本の演劇界がどのように受け止めてゆくか? 行く末を見守りたい。(タ)