ルポ 土地の記憶 戦争の傷痕は語り続ける
室田元美 著
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ルポ 土地の記憶 戦争の傷痕は語り続ける
- 室田元美 著
- 社会評論社1800円
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本紙連載「戦跡をめぐる旅」の執筆者である著者は、全国の戦跡を訪ね、話を聞いている。2010年に『ルポ悼みの島 あの日、日本のどこかで』にまとめ、本書はその続編だ。一緒に旅している感覚で読めるルポ。気軽に読めるのに中身はずっしりと濃い。
著者は各地をていねいに取材。地元の人から戦争の話を聞きだすが、前作から一貫しているのは、日本の加害の歴史を掘り起こしていること。炭鉱やダム工事などに朝鮮人や中国人を強制連行し、過酷な労働を強いたり、沖縄戦では日本軍が住民を苦しめた…。日本各地には知らなければいけない痛みがなんと多いのだろう。加害の
歴史と向き合って、碑や説明板を立てるなど、後世に伝える努力をする人々にもスポットを当てる。しかし、行政がヘイトスピーチや抗議に負けて、それらを撤去する事態が相次いでいる。「明治150年」に浮かれず、日本の苦い記憶をたぐりよせるべきと語りかける。心にしみるルポだ。(う)
アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ
栗原康 著
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- アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ
- 栗原康 著
- 岩波書店860円
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アナキズムの語源は「支配のない」そして「根拠がない」であるという。この「根拠がない」ことが意外と大事で、目的から自由である状態をさす。理想を掲げて立ち上げた組織が、やがて大儀で人を縛り、そこに支配が生じることを考えればわかりやすいだろう。
本書は資本主義、フェミニズム、コミュニズム等々といった観点からアナキズムの歴史を振り返り、彼らが目指してきたものを知ることのできる軽快な入門書だ。
アナキストたちの歴史は、その都度人間の可能性の幅を広げてきたことであるという。生の力が暴走するとき、当初の目的など見失って思いもよらない何かに変わることができる無限の可能性を誰もがもっている。「マックとかわるそうなお店」に投石するのはひくかもしれないけれど、アナキズムを武器に、目的によって人をつかえる、つかえない、で判断する息苦しい世の中にしれっと一石を投じてみることはできるかもしれない。(ゆ)
沖縄報道 日本のジャーナリズムの現在
山田健太 著
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- 沖縄報道 日本のジャーナリズムの現在
- 山田健太 著
- 筑摩書房900円
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沖縄と本土の意識差は今や「分断」(断絶)に至っている。ジャーナリズム研究者の著者は、これにはメディアの報道の在り方が関与するという問題意識で、全国紙と沖縄2紙の報道の違いや、ヘイトやフェイクニュースへのメディアの加担などを詳しく分析する。
沖縄2紙は表現が激しいと見える。その基礎にあるのは「怒り」だと著者は指摘。沖縄戦・米軍支配の歴史、基地・差別の連続ゆえ、「理性メディア」とされる新聞が、最大限の声を上げるのだ。むしろ本土メディアが、冷静を装い、おとなしい紙面を作ることに慣れてしまっていると批判する。
政府は、意に沿わない報道を「誤報」と決めつけ、メディアも事実に反する沖縄ヘイトを報道する。これらを許容する社会を打開するためには、本土メディアが思想を超えた社会的合意(=言葉)を見出し、歴史的視点を入れながらオキナワを日常的に報じることが必要と言う。「ニュース女子」問題を含め、メディアの今後を注視したい。(き)