ヒロインズ
- ケイト・ザンブレノ 著 西山敦子 訳
- C.I.P Books 2300円
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F.スコット・フィッツジェラルドの妻ゼルダ、T.S.エリオットの妻ヴィヴィアン…創作への熱意を持ちながら、著名モダニズム文学作家の夫や精神医学などにより、“ミューズ”“補完する知性”役割に閉じ込められ、創作物は読むに値しないとされ、湧き出る創作欲求は女規範を逸脱した「狂気」の烙印を押され、肉体的にも“文学的”にも無残な死を迎えた、妻や愛人たち。米国の作家が、自らの不安定な身分や夫との関係を重ねつつ、彼女らの影の歴史を掘り起こす。
私たちは、女たちの実存をかけた叫びにも似た声をどれだけ失い、出合い損ねているのか。「文学」を定義するのは誰か。女が、自分をさらけ出す表現を「自己検閲」するのはなぜか-。
著者はインターネット上の女たちの投稿に光を見出す。とっちらかっていても「私たちこそ、私たちの物語のヒロインなのだから」!訳者は静岡を拠点にフェミ関連のZINE制作などを主宰。著者+訳者からの熱いエールだ。(登)
- 家(チベ)の歴史を書く
- 朴沙羅 著
- 筑摩書房1800円
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「自分の親戚がどうやら『面白い』らしいことは知っていた」、在日コリアン3世の社会学者による父の一族の家族史。祖父母は朝鮮半島の南端、済州島出身。祭祀で集まると大喧嘩をする熱い人々が、いつ、なぜ大阪に来て、どんな人生を送ってきたのか。
済州島で教員になった伯父は、1948年の朝鮮半島の内戦の中で起きた4・3事件で逮捕され、その後密航船で日本へ。言葉にならない恐怖から、日本に来てようやく解放されたと語る。伯母の語りに4・3事件は登場しない。経験しても「語れない」理由を著者は思う。強面な雰囲気の伯父も、子ども時代に凄惨な場面を目撃した。もう1人の伯母は文字を学ぶ機会を持てず長年悔しい思いをし、後に夜間中学で文字を覚えた。通院にも不自由したつらい心情を著者は聞く。
激動の時代の一族が浮かび上がる。語り手と聞き手の息づかいが聞こえるようだ。日本人には「空白」である未知の経験を教えられる深さが面白い。(三)
検証 自衛隊・南スーダンPKO 融解するシビリアン・コントロール
半田滋 著
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- 検証 自衛隊・南スーダンPKO 融解するシビリアン・コントロール
- 半田滋 著
- 岩波書店1900円
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長く自衛隊を取材してきた著者が、南スーダンPKOの実態や、PKOの変質などを詳しく検証し、今後の自衛隊の在り方を探る。
小泉政権によるイラク派遣は、日報の「不存在」により不都合な真実が隠され、「成功」と評価された。南スーダンでも日報に記された危険な状況が明らかになれば、政権の存続は危うくなったろう。隠蔽問題には、政治家に貸しを作り、自衛隊の立場や主張を政治に反映させやすくする「逆シビリアン・コントロール」があるという。
一方、自衛隊の国際貢献はPKOだけではなく、他国の軍隊に自衛隊の技術を伝える能力構築支援や米海軍による人道支援「パシフィック・パートナーシップ」への参加などがあり、すでに自衛隊は活動を進めていると著者は紹介する。
今、国民が自衛隊に期待するのは災害派遣だ。だが、今年の防衛費概算要求に見られるように、軍事的な肥大化も進む。自衛隊はどうあるべきか。本書を読み込んでじっくり考えたい。(ね)