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ふぇみんの書評

原発事故後の子ども保養支援「避難」と「復興」とともに

疋田香澄 著

    原発事故後の子ども保養支援「避難」と「復興」とともに
  • 疋田香澄 著
  • 人文書院2000円
震災当初から保養支援活動にかかわってきた著者が、自らの活動体験と当事者および研究者や専門家などへのインタビューを加えて、保養について多面的に描く。  保養支援は、物理的に子どもたちを被ばくから遠ざけると同時に、「危険を感じる自由」「不安がる自由」を保障する活動と位置づけられるという。  著者は、原発事故による追加リスクを市民に受け入れさせようとする「統治者目線」に立たないことを選択し、避難した人、保養に参加する人、帰還する人の互いの立場を尊重し、分断の溝を埋めたいと考える。一方、保養は差別を引き起こすという言説に対し、水俣や四日市の体験、ジェンダー、リプロダクティブヘルス/ライツなどから差別の構造を考察していく。  本書は専門家の分析を引くだけでなく、当事者の言葉一つ一つを丁寧に受け取り、自身の思考へと深めて書かれている。福島後を生きる私たちに差別と分断を超える視座を与えてくれる好著だ。(ね)

別れの谷 消えゆくこの地のすべての簡易駅へ

イム・チョル 著 朴垠貞、小長井涼 訳

  • 別れの谷 消えゆくこの地のすべての簡易駅へ
  • イム・チョル 著 朴垠貞、小長井涼 訳
  • 三一書房2000円
 首都 廃線の近い「別れの谷」という名の駅を中心に、韓国の寒村で織りなされる人間模様を描く小説。春夏秋冬を章立てし、第1章秋は、「世界は美しさに溢れている」と思い込んでいる詩人の若い駅員が、やがて悲哀に満ちた現実に気づいていく話。ここに作者イム・チョルの、虚飾のなかで生きる私たちへの戒めを込めた作品への意図があるのではないか。冬-帰路では「慰安婦」だった老女の壮絶な人生を描く。荷車を引く「キュルキュル」という音が物悲しい。  民営化され高速化されていく鉄道と、見捨てられる地方。そして忘れられていく時代に翻弄された人々の哀しみ。背景には韓国の実在した駅と朝鮮半島の歴史がある。日本人にとっては共通する時代の変化と加害と被害の関係がある。この作品は物語の面白さとともに、季節に移りかわる谷の自然が視覚的に描写されている。どんな時代でも人の世は悲哀に満ちている。何よりも平和のありがたさを思い起こさせてくれた作品である。(ぶ)

文系と理系はなぜ分かれたのか

隠岐さや香 著

  • 文系と理系はなぜ分かれたのか
  • 隠岐さや香 著
  • 発行 星海社 発売 講談社980円
科学史家の著者による、文系・理系という学問区分をめぐる制度史の本だ。欧米と、日本を含む東アジアにおける学術編成の歴史を紐解き、その編成のされ方が産業界や人々の生活とどう繋がっているかを探究する。  第4章「ジェンダーと文系・理系」が秀逸。歴史学の基礎がそうさせるのだろうか、相対的に問う姿勢が常にあり意外な問題にハッとさせられる。人文系に女性が多い事はこの分野への男性進出を阻んでいるか(そうではなさそう)、理系だけでなく社会科学を選ぶ女子学生も少ない(法律・経済分野が少ないのは特に問題)など。トランスジェンダーの研究者の事例等、他ではあまりみない事例紹介もある。  1960年代の理工系学部定員大幅増の背景に、学生運動の担い手=法文系学生という理解があったという指摘と、「科学技術」に無邪気に信頼を寄せる人ばかりが求められてきたのではという著者の問いかけは、「リケジョ」再考の鍵にもなりそうだ。(水)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月750円、3カ月2,250円
 6カ月4,500円、1年9,000円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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