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ふぇみんの書評

原民喜 死と愛と孤独の肖像

梯久美子 著

    原民喜 死と愛と孤独の肖像
  • 梯久美子 著
  • 岩波書店860円
島尾敏雄の妻ミホの評伝を書いた著者が作家・原民喜を描く。  原民喜は1905年、広島に生まれた。少年期に父と姉を喪い、27歳のとき結婚した妻・貞恵も11年後、病死する。妻の死後、生家に戻った原は原爆に遭遇、多くの死を目撃する。常に死を身近に感じていた原だが、生き残ったのは、このありさまを伝えよという天命だと自覚し、手帳に書き付けた詳細なメモに肉付けする形で「パツト剥ギトツテシマツタ アトノセカイ」を小説『夏の花』に著す。  原は、困窮の中で書き続け、無口で不器用な人生を生き、1951年、中央線の線路に身を横たえて自死する。だが絶望のままではなく、新しい時代の人々=〈みどりの季節〉に希望を託して逝くのだ。  作家の自死を美化することは慎まなければならないが、原は「生ききった」人なのではないか。著者はその人生を原の作品や資料などから丁寧に紡ぎあげる。原の小さな声の意味をかみしめながら、その著作を改めて開きたい。(ね)

県立!再チャレンジ高校 生徒が人生をやり直せる学校

黒川祥子 著

  • 県立!再チャレンジ高校 生徒が人生をやり直せる学校
  • 黒川祥子 著
  • 講談社880円
 首都圏郊外にある「課題集中校」の県立槙尾高校(仮名)で、生徒に徹底的に向き合い、人生のやり直しを支援する教師たちの奮闘を描いた本書は、著者が約4年取材し実話を元に書いた。学校は誰のため何のためにあるのか―根源的な問いを突きつける。  槙尾高校では生徒の非行に、教師が上から押さえつけずに、横に並んで寄り添う。その方針は管理職と教師が長年話し合い作り上げた。すると「困った生徒」は「困っている生徒」だった。貧困、虐待、ネグレクト…。親も疲弊している。教師と管理職がチームとなり、一人一人を気にかけ、生活を整え、勉強の楽しさを伝え、あらゆる地域資源をつなげて卒業後の就職まで射程に入れた支援をする。  子どものために、貧困の連鎖を絶つために、ここまでやれる。シングルマザーである著者は、妊娠して退学し親の生活保護で暮らす少女に心を痛めて、槙尾高校に出合った。限りない共感に基づく渾身の希望の書でもある。(登)

骨が語る兵士の最期 太平洋戦争・戦没者遺骨収集の真実

楢崎修一郎 著

  • 骨が語る兵士の最期 太平洋戦争・戦没者遺骨収集の真実
  • 楢崎修一郎 著
  • 筑摩書房1500円
日本政府の発表によると、先の大戦の海外での戦没者240万人のうち、112万人分の遺骨が未収容。2016年3月、「戦没者遺骨収集推進法」が成立し、24年度までに遺骨収集が強化されているという。著者は、この法の成立以前から、太平洋諸島を中心に戦没者の遺骨収集の現場に派遣され、遺骨を鑑定してきた人類学者。遺骨発掘調査の困難さや、どのような思いで遺骨を見つめてきたのかを記した珍しいルポだ。   玉砕、飢餓、処刑、自決の痕…70年以上経った今でも、骨が訴える情報がある。サイパンやテニアンでは、遺骨の半数が女性や子どもなどの民間人だった。「現在生きている我々には、彼らのことを語り継いでいく義務があるのではないだろうか」の著者の言葉に頷く。 本書では触れられていないが、遺骨収集推進法には、朝鮮半島や台湾出身の軍人・軍属は対象から外されている。眠ったままの骨は我々にさらに多くの課題を突き付けているのではないか。(り)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月750円、3カ月2,250円
 6カ月4,500円、1年9,000円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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