百年の女 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成
酒井順子 著
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百年の女 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成
- 酒井順子 著
- 中央公論新社2000円
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ゴシップ精神と、中高年女性の性や生、政治を絶妙なバランスで編む女性誌「婦人公論」。創刊100年を超えた同誌のこれまでを、『負け犬の遠吠え』の著者が軽妙なタッチで読み解いた。
創刊時は女は法的無能力者。日本初のフェミ雑誌『青踏』が巻き起こした「新しい女」ブームに乗り、男が女を教え導く(!)婦人雑誌として誕生。編集側も男ゆえの限界はあるが、母性保護論争や主婦論争など女の議論の受け皿にもなった。時代背景や空気を著者が解説し、たどる百年は絵巻物を見るよう。今も続く読者投稿欄からも、高揚し、揺らぎ、戻り、迷う女たちの姿が浮き彫りに。嫁姑問題などは変わらないが、セクハラやDVが認知され、NOと言い、性や欲望を語り、老いや介護に向き合う女の姿に百年間の進化が見える。
同誌も戦中は「女はよき兵士を産め」との特集ばかり。著者の「時代は、戻る。…幸福を追求する権利を、この先も手放してはいけない」との言葉を噛みしめた。(登)
ギャングを抜けて。 僕は誰も殺さない
工藤律子 著
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- ギャングを抜けて。 僕は誰も殺さない
- 工藤律子 著
- 合同出版1560円
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著者は、長らくスペイン語圏を中心に貧困や格差について取材。その活動の中、ホンジュラス出身である本書の主人公と出会う。
彼、アンドレアスは現在21歳。故郷はギャング団「マラス」が幅を利かせ、「麻薬」がはびこり、「人殺し」は当たり前。彼もマラスに憧れ、その一員だったが、ある日、殺人を目の前にして悲惨な日常からの脱出を決意する。
強盗に遭遇したり、他人の善意に救われたり、さまざまな冒険の末メキシコに入国したアンドレアスは、ストリートチルドレンなどを支援するNGO団体で職業訓練を経て現在は自活。彼の願いは、そうしたNGOの施設がなくなること。施設の存在は悲惨な状況にある子どもたちが存在することに他ならないからだ。
「自分が進むべき道は、自分で創る」。自らの罪と向き合い、ギャング以外の人生を選び、「人の役に立つ人生を送りたい」と奮闘する主人公は、日本の若者たちにも勇気を与えてくれるはずだ。(タ)
フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義
永田浩三 編著
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- フェイクと憎悪 歪むメディアと民主主義
- 永田浩三 編著
- 大月書店1800円
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「フェイクと憎悪が牙をむき共振して、マッカーシズムやナチズムが起きた」。NHK「慰安婦」問題の番組改変事件に巻き込まれた永田浩三は、冒頭で述べる。
フェイクなネットニュースが好奇心を刺激して広がる世界とメディアの現状を、「ニュース女子」をめぐる問題や企業戦略、保守論壇、書店の役割などに、映像ディレクター、ジャーナリスト、ネットニュースサイトの編集者や精神科医など12人の論客が切り込む。
嫌韓をあおるため全くうそのニュースを捏造するのはなぜか。ネットニュースの有料コンテンツが増える中、フェイクニュースを流す新聞社がコンテンツを無料にする戦略をなぜ続けるのか…。
情報空間を、公平を保つ「公正圏」と編集方針を明確に示す「自由圏」に分け、受信者の判断に委ねる制度を、辻大介が示す。永田は「真実は政権の都合のいいところには存在しない」と言う。ファクトを求め、憎悪から脱する一助になる。(三)