トランプ王国の素顔
- 立岩陽一郎 著
- あけび書房1600円
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パナマ文書の取材にも中心的に関わった著者が、NHK退職後、トランプ大統領のアメリカを半年間ルポした記録だ。トランプの支持者は多様で、政治家は信用できないから政治家でないトランプがいいと言う者や、オバマのように謝ってばかりでなく強いアメリカを取り戻してと言う者もいる。だが支持者たちから異口同音に聞こえてくるのはまず雇用だ。仕事さえあれば他の政策はどうでもいい、大統領すら誰でもいいという声まである。また、老人ホームで高齢者の声を聞くと、トランプは身びいき、役不足と辛辣だ。高齢者たちは、草の根的な良識を共有し、公正さとか民主的な手続きといった伝統的な価値観がトランプによってないがしろにされる危機感を抱いていると筆者は見ている。
本書は、トランプ本人はもちろん、政府関係者などを取材しないかわりに、トランプを大統領に押し上げた市井の人々に広く話を聞くことで、現在のアメリカの姿を伝えている。(公)
そろそろ左派は〈経済〉を語ろう レフト3.0の政治経済学
ブレイディみかこ、松尾匡、北田暁大 著
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- そろそろ左派は〈経済〉を語ろう レフト3.0の政治経済学
- ブレイディみかこ、松尾匡、北田暁大 著
- 亜紀書房1700円
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安倍首相が秋にも憲法改正案を示す。対抗する左派も”総がかり”で取り組む…が、その前に本書を。安倍首相の支持率が高いのは経済政策が一定の成果を上げているからだ。政策の一部(金融緩和と財政出動)は、欧州で支持を広げつつある左派の主張と似る。一方日本の左派は、経済を語らない。本書は緊縮がもたらした悲惨な現場を知る英国在住の保育士(ブレイディ)と、理論経済学者(松尾)、社会学者(北田)の徹底鼎談。
まずは左派が言いがちな「脱経済成長」「分配」を批判。経済成長の理解に誤解がある上、デフレ不況と若者の高失業率は悪化するばかりで、結局ネオリベと同じ「緊縮」に結着すると。下部労働者や階級に根ざす進化した「レフト3.0」が必要、と。欧州で台頭しつつある反緊縮運動も同じ流れだ。
経済理論を分かりやすく語る学者らとブレイディの的確なツッコミ。左派変遷を語る補論も秀逸。まだ間に合う。改めて経済を知り、語ろう。(登)
沖縄は孤立していない 世界から沖縄への声、声、声。
乗松聡子 編著
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- 沖縄は孤立していない 世界から沖縄への声、声、声。
- 乗松聡子 編著
- 金曜日1800 円
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2014年初め、100人超の海外の文化人が、沖縄・辺野古の新基地建設に反対し、沖縄と連帯する声明を出した。それを受け、同年から3年間琉球新報に連載された「正義への責任 世界から沖縄へ」をまとめたのが本書だ。影響力ある30人以上の識者が登場。編者はカナダ在住の編集者。執筆者はクリスティーン・アンなど平和運動家、映画監督のオリバー・ストーン、ピーター・カズニックら研究者、沖縄に縁のある作家など、海を越えた多彩な連帯だ。
キーワードは「責任」。自国の帝国主義に責任を意識した米国人は、その不正義を正す責任を有するという考え。編者は、沖縄のために米国を動かすには、専門的で、米国の文脈に則った、効果的なコミュニケーションと、知日政治家との確かなパイプが必要と考える。
琉球大学の高良鉄美は「沖縄の人が気づいていない視座を提供している」と評する。本書から受け取ったボールを次に放っていかなくてはと、心した。(三)