子どもの貧困と食格差 お腹いっぱい食べさせたい
阿部彩、村山伸子、可知悠子、鳫咲子 編著
|
子どもの貧困と食格差 お腹いっぱい食べさせたい
- 阿部彩、村山伸子、可知悠子、鳫咲子 編著
- 大月書店1500円
|
|
「子ども食堂」の数が全国で2千を超えたと報道され、「子どもの貧困」は大きな社会問題として認識されるようになった。それでもこれまで、子どもの貧困問題を「食」に特化して語った本はなかったのではないだろうか。副題にあるように、育ち盛りの子どもたちにお腹いっぱい美味しいものを食べさせてやりたいという思いは、多くの人の願いだろう。
食べるということは、単に空腹が満たされればそれで良いというものではない。量だけではなく、バランスのとれた栄養価の高い食物を摂ること、楽しんで食べること、その楽しみを誰かと分かち合うこと、など様々な側面が含まれている。そういった意味でも、学校給食がいかに優れているかを改めて認識させられた。
とはいえ、住む地域によって学校給食が無かったり、あっても地域格差が大きい。とりわけ必要だと考えられる夜間定時制高校の給食実施率が低下している現実は、変えなければと強く思う。(順)
韓国の民衆美術(ミンジュン・アート) 抵抗の美学と思想
古川美佳 著
|
- 韓国の民衆美術(ミンジュン・アート) 抵抗の美学と思想
- 古川美佳 著
- 岩波書店3400円
|
|
韓国の時代劇ドラマなどには、虐げられた民衆の抵抗場面が頻繁に登場する。その度に「抵抗の美学」を強く感じるが、韓国のアートを見た時も然り。本書は、政治や社会を描き、「抵抗の表現」を続けた民衆美術の歴史と、それを担ってきた洪成潭や金鳳駿などの作家たちを数多く紹介している。
光州事件での版画ポスターや民主化闘争時のコルゲ・クリム(大型垂れ幕絵)、「平和の少女像」、キャンドルデモまで、抵抗文化が果たした役割は非常に大きかった。また尹錫男や金仁順などの女性美術家たちは“女性の抑圧”を描き、女性運動の台頭を背景に広く連帯、フェミニズム・アートを牽引し、映画や出版などにも影響を与えた。
人々が何にどう抵抗し、どう運動を広げたのか、重層的な民衆運動の思想史を知った。民衆美術運動には「互いをつなぐ信頼の情」が流れ、それが武器になり抵抗運動の奥深さを形成したと著者は言う。日本の市民運動にアートが必要かもしれない。(く)
思想の廃墟から 歴史への責任、権力への対峙のために
鵜飼哲、岡野八代、田中利幸、前田朗 著
|
- 思想の廃墟から 歴史への責任、権力への対峙のために
- 鵜飼哲、岡野八代、田中利幸、前田朗 著
- 彩流社2300 円
|
|
「慰安婦」問題と歴史認識、原発と権力を主要なテーマに、前田朗が聞き手となった6本の公開インタビューをまとめた。
岡野は、権利を奪われている人たち(在日など)と共に日本社会を形成している責任が私たちにはあり、国民が政治家が出してくれる政策を選ぶ「消費者」となれば、犠牲のシステムを作動させる主体が私たちになってしまうと語る。
元広島平和研究所の田中は、反核運動と反原発運動の断絶を問い、教育による過去の克服を課題として、ナチ台頭を許した国民の責任を問うドイツに学べと言う。
2015年3月まで1年間フランスに滞在し、シャルリ・エブド事件にも遭遇した鵜飼は、レイシズムに覆われるフランスの状況と、核大国・原子力大国フランスと日本の接近を指摘する。
発言のひとつひとつが私たちの次の一歩のための警鐘だ。ますます悪化する「思想の廃墟」を前に呆然と佇んでいるわけにはいかないとこの書は語りかける。(ね)