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ふぇみんの書評

戦争とトラウマ 不可視化された日本兵の戦争神経症

中村江里 著

    戦争とトラウマ 不可視化された日本兵の戦争神経症
  • 中村江里 著
  • 吉川弘文館4600円
阪神淡路大震災以降にPTSDが周知されたが、先の大戦で精神を病んだ日本兵については長らく忘れられてきた。それはなぜか。日本兵の戦争神経症は戦中戦後どう扱われたのか。軍による焼却を免れた資料から詳らかにする。  軍は戦争神経症に関心を示すも、「皇軍の精神的卓越」というプロパガンダの下、戦闘直後の症状以外は兵役拒否と恩給欲しさが引き起こすと捉え、傷痍援護等級も低く、恩給授与は上位階級の者だけ。また「ヒステリー=女のもの」「兵士=男性のアイデンティティー」から、精神病で除役された恥辱感は患者本人、家族、共同体に共有された。  著者は、戦後全国の病院で、家庭で、PTSDを抱えて生きた人のわずかな声・沈黙をも拾い、地理的・時間的に際限なく広がる戦争の傷跡を描き出した。暴力的な軍隊生活で発症した人、DVなど依存症に陥った人…。それは、海外派遣された自衛官のメンタルヘルスという喫緊の課題に私たちを結びつける。(登)

山田わか 生と愛の条件 ケアと暴力・産み育て・国家

望月雅和 編著 能智正博 監修・解説

  • 山田わか 生と愛の条件 ケアと暴力・産み育て・国家
  • 望月雅和 編著 能智正博 監修・解説
  • 現代書館2300 円
  平塚らいてう、与謝野晶子らが母子保護に対する国家の役割を議論した「母性保護論争」。その論者の一人山田わかを6人が語る。  騙されてアメリカで娼婦となり、苦労の末14歳年上の山田嘉吉と出会って、帰国してからは母性保護推進活動を展開、戦時中は銃後の母の旗手となった山田わか。  大友りおは、わかと結婚した嘉吉の行動を、若い女性を教育して自分の理想の女性像を具現しようと望む「父の欲望」と名付ける。それを映画『マイ・フェア・レディ』を援用してひもとき、単純な女性の成長物語とはとらえないその分析は、近代における「教育」の概念そのものへの疑問にもつながって興味深い。  また弓削尚子は、わかの家庭主義・母性主義という思想が、人道主義の衣をまとって女性個人の自由や独立を抑え、男女の分業こそ社会の進歩とみなして当時のファシズムとつながったことを明らかにする。今、山田わかを読む意義がはっきりしてくる。(木)

日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たか

布施祐仁、三浦英之 著

  • 日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たか
  • 布施祐仁、三浦英之 著
  • 集英社1700円
南スーダン日報隠蔽事件解明の端緒となる情報公開請求を行ったジャーナリストの布施祐仁さんが事件の経緯を詳述、朝日新聞アフリカ特派員の三浦英之記者が現地ルポを描く。最終章の対談を含めて、日本と南スーダンの二つの現場のリアルに衝撃を受ける。  情報の適切な公開と、国会や国民の十分な議論という民主的政策決定過程が、自衛隊の撤収議論の回避のため、防衛省・自衛隊の組織的隠蔽で歪められたことが最大の問題と布施さんは指摘する。  PKOは変質した。文民保護のために武力行使も辞さない。憲法9条とPKOの現実との矛盾を覆い隠すことで危険にさらされるのは、現地の自衛隊員だ。戦死者がなくても、戦争は兵士の心に傷を残す。  憲法9条を変えて武力行使もするのか、憲法を変えず自衛隊派遣以外の手段でPKOに貢献するのかが問われている現実を、国民は知る責任があると布施さん。  自衛隊と改憲を考えるにあたり必読の書だ。(い)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月750円、3カ月2,250円
 6カ月4,500円、1年9,000円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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