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ふぇみんの書評

地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」

青木美希 著

    地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」
  • 青木美希 著
  • 講談社920円
 朝日新聞記者の著者が7年間追い続ける福島原発事故。地道な取材に基づいて、「手抜き除染」「帰還政策」「原発いじめ」「避難者」などを取り上げる。  2013年、南相馬市で収穫されたコメから放射能が検出された。土からの吸い上げではなく、1号機のがれき撤去による放射性物質の飛散が原因かと疑われたが、原子力規制庁により放出量は値切られ、真相究明は蹴散らされた。  住宅支援や減免制度の打ち切りで追い詰められる避難者、「お金持ち」と言われて、ゆすりやいじめにあう子ども。一方で避難指示解除は進み、再稼働も続く。都合の悪いことは隠される。それはいったい何のため?  ある官僚は「あいまいのまま、帰還政策を進める、政権の思惑通り」と現状を嘆く。それでも著者は新聞記者として、なかったことにされようとしている「不都合な事実」を書く。突き動かしているのは、口惜しさと怒りだろうか。私たちは決して忘れてはいけないのだ。(ね)

判事の家 増補版 松川事件その後70年

橘かがり 著

  • 判事の家 増補版 松川事件その後70年
  • 橘かがり 著
  • コールサック社900円
 1949年に起きた列車転覆事件(松川事件)で、最後まで唯一、被告らの有罪を頑迷に主張した最高裁判事を祖父に持つ著者の自伝的要素を含む小説。戦後、労働運動が盛り上がり、GHQの占領方針が転換された時代。後に被告らは厳しい量刑から最高裁で一転全員無罪が確定。事件は共産主義者を弾圧する「謀略」と言われた。  主人公は多くの大企業の顧問弁護士の父の下で不自由なく暮らすが、祖父や両親には客観的な目を持つ。父の愛人に松川事件と祖父について聞かされたことから事件に関心を深め、元被告に祖父や事件・裁判について問う…。著者は複雑な家族史から、遠い過去になってしまった戦後史の一大事件を現代に呼び起こした。後半の事件史のようなドラマチックな展開にぐいっと引き込まれ、また「謀略」の今日性に考え込んだ。  ボートピープルとして日本に渡った女性の体験と半生が語られる、同時収録の短編「月のない晩に」も深い光を放つ。(三)

1945,鉄原

イ ヒョン 著 梁玉順 訳 金明和 装画・挿絵

  • 1945,鉄原
  • イ ヒョン 著 梁玉順 訳 金明和 装画・挿絵
  • 影書房2200円
鉄原(チョロン)は朝鮮半島のほぼ中央に位置する。軍事境界線を挟んで、韓国と北朝鮮双方に同名の地域がある。朝鮮戦争の激戦地であり、韓国では“安保ツアー”と称し、戦跡などを巡る観光ツアーが行われている。   本書は1945年8月から47年1月までの、北朝鮮でも韓国でもなかった鉄原が舞台の小説。小作農の娘で小間使いの敬愛、両班の家の基秀と恩惠、奴婢出身の斎英ほか若者たちの夢や葛藤を描く。  日本の植民地支配から解放されるも混乱が続いた朝鮮半島。親日派や人々を搾取する地主に抵抗する庶民。身分・階級による軋轢や、左右のイデオロギーなどに翻弄されながらたくましく生きる登場人物に共感する。解放後の人々が持っていた希望を、後の南北分断や朝鮮戦争の悲劇と合わせて考えた。  朝鮮の人々を蔑視する日本人にこそ読んでほしい。ヤングアダルト小説で読みやすく、ドラマチックな展開にハラハラ。鉄原に行ってみたくなった。(よ)
【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月750円、3カ月2,250円
 6カ月4,500円、1年9,000円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
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