満州開拓団の真実 なぜ、悲劇が起きてしまったのか
小林弘忠 著
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満州開拓団の真実 なぜ、悲劇が起きてしまったのか
- 小林弘忠 著
- 七つ森書館2000円
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1945年8月25日早朝、満州北部の国境沿いでソビエト軍に追われた長野県高社郷の開拓団が集団自決をはかり、死者は女性や子どもを含む500人にものぼった。ソ連との国境近くにいた関東軍には、大本営から有事があっても騒動を起こすなという「国境静謐」が説かれ、軍隊のみを密かに移動させることにつながった。
高社郷の開拓団が取った方法は「全員玉砕」。生きて辱めを受けるよりはと親は子どもたちを、男たちは女たちを手に掛けた。祖国ですでに灯りがともり闇市に人が群がっていたときに、旧満州では開拓団の大勢の血が流されていたのだった。
著者の小林弘忠さんは先日逝去された元新聞記者。高社郷の生存者からの聞き取りのみならず、ソビエト侵攻の経緯や関東軍の動き、日本政府と軍の情報隠しを詳しく検証し書き残している。強行採決された特定秘密保護法や集団的自衛権などに、満州開拓団の教訓は活かされているのかと改めて憂う。(室)
ママは殺人犯じゃない 冤罪・東住吉事件
青木惠子、里見繁 著
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- ママは殺人犯じゃない 冤罪・東住吉事件
- 青木惠子、里見繁 著
- インパクト出版会1800円
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1995年、大阪市東住吉区の住宅が全焼し、少女が死亡。母親の青木惠子さんと、同居の男性が殺人罪で起訴され、2006年に無期懲役が確定。16年、再審により無罪判決が出る。本書は「娘殺し」の汚名を着せられた青木さんの21年間の想像を絶する闘いの記録だ。
この事件は「自白」のみで起訴・有罪になった。娘に保険金をかけていたことと住宅購入計画があったという事実から、殺人ストーリーを作り上げた警察が、暴行や脅し、偽計などにより2人を「自白」に追いつめる。一審で2人は「自白は強要された」と無罪を主張するが、裁判官たちは自白の矛盾点も無視する。動機とされた保険加入は勧誘によるもので、住宅購入の不足金もたった170万円なのに、有罪と言い続けた。弁護団の努力で「燃焼実験」が行われ、車からのガソリン漏れと風呂釜の種火が事故の原因と判明する。警察、検察、裁判所の杜撰さに驚き、簡単に冤罪がつくられる現実に震えが止まらなくなる。(う)
- 記憶の中のシベリア
- 久保田桂子 著
- 東洋書店新社2200円
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映画『祖父の日記帳と私のビデオノート』『海へ 朴さんの手紙』の監督である著者が、「映像に入れることのできなかったものを、もう一度ことばによってすくい上げ」たのが本書だ。
ソ連のクラスノヤルスク収容所で3年余り過ごした祖父の体験。認知症がすすみ、退院してきた自室で「殺したのは向こう(中国)の兵隊だけではない、…子どももいた」と語る。
韓国にある朝鮮人抑留者の団体では、祖父と同じ収容所にいた、6人に話を聞く。日本語でインタビューを受け、宴会では日本語の懐メロとロシア語の民謡を歌う人たち。冷戦下の韓国では「共産主義教育を受けたもの」として指弾され、抑留体験を語ることができなかったという。
大文字の「正義」の前に立ち止まり、体験を聞くことは自己満足ではないかと思い悩みながら、映画はゆっくりと作り上げられ、こぼれ落ちた感情と物語がこの本に留められた。(き)