戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇
堀川惠子 著
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戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇
- 堀川惠子 著
- 講談社1800円
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広島に投下された原爆で、内務省派遣の移動劇団「桜隊」9人が被爆し、戦前の名優・丸山定夫を含む全員が死亡したことは、戦後映画化もされた。だがそこに至る足跡を知る資料は少なかった。著書は「桜隊」演出家で、隊員の骨を拾い最期を看取った八田元夫が書き遺した膨大な資料を発掘し、戦前戦後の演劇史を塗り替えた。
大正デモクラシーを背景に、東京・築地小劇場を中心に新劇、特にプロレタリア演劇が民衆の心を掴んだ。しかしやがて検閲で脚本や演出がズタズタにされ、治安維持法で俳優や八田ら演出家は次々検挙。劇団は「自発的解散」、演劇人は大政翼賛会下部組織の移動劇団加入を余儀なくされた。国策芝居もしつつ、少しでもいい芝居をともがく八田や丸山の情熱や執念がにじむ。戦後、希望に燃える丸山らの命を放射能が食い荒らし、八田は戦争責任を胸に演劇に生きた。
今こそ、断ち切られた彼らの希望、夢、情熱、愛情を私たちが噛みしめる時だ。(登)
- 結婚差別の社会学
- 齋藤直子 著
- 勁草書房2000円
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本書の「結婚差別」は、「被差別部落出身者」との恋愛・結婚における差別である。「相手が部落出身者だから」という理由で反対する親と当事者カップルの、対立や和解、決裂などの実例から分析し、根強い差別の実態を描く。
2016年、「部落差別の解消の推進に関する法律」が国会で成立、施行されたが、国会審議で報告された差別実例の多くは結婚問題だった。法律婚や結婚制度に批判的な人も増える一方、「親の許し」のような家制度的規範とは違う「親の祝福」があってこそ「幸せな結婚」になると考える人は多く、現代の結婚観や、子の結婚により顕現する差別の実相が興味深い。
子のための反対が「差別」と思わない無自覚さに差別の根深さがある。02年に同和対策関連の法律が終了し、露骨な差別発言をする人が再び出ている可能性もあるという。差別の解消には同和・人権教育が必要だ。ていねいな聞き取りから差別の本質に迫り、支援までつなぐ本書は貴重だ。(ん)
歴史を学び、今を考える 戦争そして戦後
内海愛子、加藤陽子 著
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- 歴史を学び、今を考える 戦争そして戦後
- 内海愛子、加藤陽子 著
- 梨の木舎1500円
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戦後70年特別座談会「それでも日本人は『戦争』を選ぶのか?」をまとめた一冊。加藤陽子さんは歴史学者、内海愛子さんは、戦後補償問題に取り組んできた歴史社会学者だ。
加藤さんは、内村鑑三など戦争への道に警告を発した人々を紹介する一方、「戦前の国民の反英米的意向」は指導者階級がその方向にのみ歩むことを民衆に教え続けてきたゆえに作られたとする尾崎秀実の論評や、ABCD包囲網に反発した太平洋戦争開戦時の日本政府や国民の意識に言及する。
内海さんは、日本はサンフランシスコ平和条約と安保条約体制下で、元戦犯や軍人に恩給や年金を支給したが民間の戦争被害者には「受忍義務論」を強要し、朝鮮人・台湾人の元日本兵や労働者を戸籍法によって切り捨て、沖縄には米軍基地を集中させたと指摘する。
戦前と戦後、これからを考えるとき、本書に学ぶことは多い。「戦争裁判・賠償一覧」「戸籍・国籍の歴史」など資料も豊富。(い)