- 新・日米安保論
- 柳澤協二、伊勢﨑賢治、加藤朗 著
- 集英社760円
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〝抑止力″として米軍基地の存在があったが故、自衛隊は憲法9条のもと専守防衛の旗を掲げてこられたのではないかという問題意識で、トランプ政権、尖閣と日米中関係、対テロ戦争、北朝鮮への対応など現状を分析しながら、日米同盟に代わる選択肢を求めて、3人が議論した。
米国に島を守ってもらうために、日米同盟が必要不可欠というのは、日本にとって都合のいい願望の表現でしかないと柳澤さんは言う。さらに、安倍首相が集団的自衛権で米国の船を守れることで米国と対等になったというのは、戦術的には対等でも、米国への戦略的従属だとも指摘する。
米国との地位協定が不平等なのは、今や世界の中で日本だけであり、その改定に取り組んでこなかった護憲派の不十分さも議論される。
冷戦後の世界秩序の変化の中、米国追随のままでいいのか。自衛隊の海外派遣ではない、国際貢献をどのように具体化するのか。それらを考えるための必読書。(ね)
- スウィングしなけりゃ意味がない
- 佐藤亜紀 著
- KADOKAWA1800円
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ナチス政権下のドイツ第2の都市、ハンブルク。町の富を背景に、退廃と反抗を体現するスウィング・ボーイズがいかに戦争を生きたか、実話をもとにした物語。
「祖国のために死んだりしない」と言う主人公たちは、戦争がすべてを覆う状況にうんざり。敵性音楽のジャズを演奏し、レコードをかけまくり、ダンスに精を出す日々。時代の自由な空気を吸いつづけたい彼ら・彼女らの会話や行動は、戦争後の社会も見据える。空爆で経営者の父が死んだ後の軍需工場を操る主人公は、「バカな国にたかる寄生虫ども」を冷笑し、強制収容所から工場に徴用されたユダヤ人や政治犯を現実的な理由から助けるなど、目を見はる。
著者はユダヤ人の定義の嘘臭ささをさりげなく表し、ナチスやヒトラーユーゲントを嗤い、時勢に乗らない若者を描く。「抵抗」を語らずとも、嫌戦が読み解ける。こんなハンブルクを書いたのが日本人なのか、と感嘆するほど著者の緻密な調査が生きている。(三)
- 彫刻の問題
- 白川昌生、金井直、小田原のどか 著
- トポフィル2200円
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昨年秋に愛知県立芸術大学で開催された「彫刻の問題」という展覧会に関連し刊行された本書。展覧会を企画した大学教員の金井、長崎の原爆投下の碑にまつわる作品を発表した美術作家の白川と小田原の3人が、モニュメントや公共彫刻について考察している。
戦前の勇ましい男性軍人の銅像に代わり、戦後は「平和」や「希望」と名がついた女性の裸体像が全国に設置された。が、平和という名の女性の裸体像は日本以外では見られない現象という。
「問題は戦後日本の公共彫刻史の負債…裸体や抽象のような剥き出しの“美術”を撒種してきた無頓着さ」(金井)とあるように、私自身は裸体に違和感があっても反対の声は上げなかった。が、長崎では爆心地に《母子像》を立てることに反対し市民が起こした裁判もある。なぜ「女の裸」「母子」なのか。著者たちの「この国の彫刻は検証されるべき」に納得する。社会に影響を与える公共彫刻に無関心ではいけないと思う。(ぱ)