地方自治のあり方と原子力
反原発運動全国連絡会 編
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- 地方自治のあり方と原子力
- 反原発運動全国連絡会 編
- 七つ森書館2500円
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脱原発の実現のために地方自治ができることがもっとあるはず。全国の反・脱原発運動をつなぐ「反原発運動全国連絡会」が、自治体や市民の取り組みを紹介する。
憲法も地方自治法も、国と自治体は対等であると示す。本書序論は原発の安全規制に自治体が関与できることを強調する。原子力防災は自治体に法的権限がある。原発再稼働に対して避難経路の不備を突くのは自治体だからこそ。
安定ヨウ素剤の配布・備蓄は自治体が強く関われることが兵庫県篠山市の例でわかる。篠山市は「原子力災害対策検討委員会」に市民委員を入れ議論を深めた。市民と市と専門家の協力が、新たな実践を可能にした。
首長が反原発の中心になる自治体もある。指定廃棄物処分場に反対する栃木県塩谷町、対岸の大間原発建設に訴訟を起こして反対する北海道函館市。
自治体には電力会社と安全協定を結ぶなどさまざまな権限がある。それを最大限活かすには住民の力が必要だ。(三)
そろそろ、部活のこれからを話しませんか 未来のための部活講義
中澤篤史 著
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- そろそろ、部活のこれからを話しませんか 未来のための部活講義
- 中澤篤史 著
- 大月書店1800円
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日本のほとんどの中高生が所属する部活。それにあまり疑問を持たずにいたが、実は日本の部活は他国に比較して、その規模の大きさや加入率からも非常に特異だという。そしてその結果今問題になっているのは、教師による体罰死や、教師の過労死ラインの時間外労働だ。本書は、部活の成り立ち、変遷、実態から、今後のあるべき部活の姿を模索したもの。
それにしても、部活が、戦後民主主義の中、生徒の「自主性」を育むためと位置づけられたものの、自主性ゆえに制度的法的には裏付けが曖昧だということに驚いた。それなのに加入しない選択肢はあまり考えられないところが、なんとも日本的だ。
著者は部活の本質(「楽しむ力」を育てる)を抽出し、生徒、教師双方が互いを搾取することなく、その本質を実践、支えるようにすることが、部活の未来の姿だと解く。その姿は、部活と同じく摩訶不思議なPTAや、広く「学び」にも応用できるのではないかと思った。(登)
- 復興ストレス 失われゆく被災の言葉
- 伊藤浩志 著
- 彩流社2300円
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放射線による健康被害への「不安」は、非科学的とされてきた。安全性は「科学的」に評価でき、不安感は心の問題で正しい科学知識を身につければ解消される…。そうして被災者は言葉を失う。
著者は、脳神経科学の観点から、「不安」は生存のための警報装置として、「情動(直観)」は生存に有利な情報を素早く選びだす合理的な働きをすることを明らかにする。さらに、故郷の喪失、避難生活、情報への不信、地域や家族の分断、経済負担や社会的格差などの「社会の病」により、健康リスクが高まることにも注意を促す。「心が痛めば実際に心臓が痛む」のだ。
「科学による科学批判」を以て「科学的リスク論」に根本的な反省を促すことが本書の狙いと著者はいう。社会の病とコミュニケーション不全を克服し、「科学的」を盾に被災者を切り捨てるものたちに対抗して、安全への社会的合意を作ることができるのか。新たな知を得た市民のこれからにかかっている。(ね)