風(かじ)かたか 「標的の島」撮影記
三上智恵 著
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- 風(かじ)かたか 「標的の島」撮影記
- 三上智恵 著
- 大月書店1500円
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ドキュメンタリー映画『標的の島 風かたか』の監督が、ウェブサイト「マガジン9」に連載した撮影日記を加筆してまとめた。沖縄の宮古島、石垣島、辺野古、高江で基地建設に反対する人々との出会いや出来事が綴られる。
翁長沖縄県知事と菅官房長官の会談で、知事が長官の憎らしい問いかけをするりとかわす様子。宮古島の「てぃだぬふぁ」の女性たちが、入念な下調べをして下地市長に詰め寄る。石垣島の山里節子さんの、かつて米軍に協力したという後悔。抗議する市民のゲート封鎖で基地内に入れない民間会社のトラック運転手も、「仕方ないさ」と理解を示す。一つ一つの場面が、現場に密着した著者の丹念な取材から導き出される。著者の憤りと熱い思いがここにある。そして読者も、個人を傷つけることがない沖縄の「鈍角の闘い」を知ると、背中を押されるだろう。
人を描き、人を惹き付ける著者の魅力、そして闘いへの気迫があふれる。(三)
生命の詩人・尹東柱 『空と風と星と詩』誕生の秘蹟
多胡吉郎 著
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- 生命の詩人・尹東柱 『空と風と星と詩』誕生の秘蹟
- 多胡吉郎 著
- 影書房1900円
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1945年2月、福岡刑務所で、27歳で獄死した尹東柱(ユン・ドンジュ)。戦争中、朝鮮語で詩を詠み、治安維持法違反の疑いで逮捕・収監されていた。48年、韓国で彼の詩集が出版された後、国の代表的な詩人となり、現在は日本でも知られる。
本書は95年に尹東柱のドキュメンタリー番組を制作・放送した、元NHKのディレクターの著者が、番組取材や、その後20年にわたる調査・研究を基に、作品の解釈や彼の生涯を丁寧に追ったものだ。
取材で出会った人々、尹東柱の原稿に書かれた日付や書き直しの跡、ノートの余白に書かれた言葉、遺された本に引かれていた線や記号…それらを紡ぎ、尹東柱の思想や生き方に迫る。「序詩」をめぐる日本語訳の論争や、彼の死の原因などを追究した箇所は、謎を解くミステリーのように読んだ。清冽な詩がより一層心に響き、自己を見つめ、生命への深い共感を持っていた尹東柱という人も作品もますます好きになった。(ん)
「心の除染」という虚構 除染先進都市はなぜ除染をやめたのか
黒川祥子 著
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- 「心の除染」という虚構 除染先進都市はなぜ除染をやめたのか
- 黒川祥子 著
- 発行 集英社インターナショナル 発売 集英社1800円
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放射能汚染や被曝を心配する心や気持ち―「根拠のない」感情をこそ除染すべきと、福島県伊達市では市長自ら「心の除染」を謳う。
著者は伊達市出身。原発事故の「縮図」が伊達市にあると、5つの家族の、子どもを守ろうとする「戦い」を通して問題を描き出す。
伊達市の「特定避難勧奨地点」制度は、避難を地域ではなく点で決めた。同じ小学校の生徒57人のうち避難対象は21人。理不尽にも地域社会は切り裂かれた。市長は「放射能と戦う」と言い、子どもを地域から逃がさず、「伊達市」を守る。
さらに市では、全市民のガラスバッジ装着、エリア分け除染を行う。だがこれらは、バッジデータから追加被曝基準を引き上げ、不必要な除染をしないことで損害賠償費用を削減する、使い勝手のいい「前例」を作る「実験」だったと著者は指摘する。
東京五輪を前に、放射能汚染や被曝の危険が「ないもの」にされようとする今、これらの事実を胸に刻みつけなくてはと思う。(ね)