国のために死ぬのはすばらしい?イスラエルから来たユダヤ人家具作家の平和論
ダニー・ネフセタイ 著
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- 国のために死ぬのはすばらしい?イスラエルから来たユダヤ人家具作家の平和論
- ダニー・ネフセタイ 著
- 高文研1500円
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著者はイスラエル出身のユダヤ人で、元イスラエル空軍兵士、今は埼玉県の家具職人という異色の経歴の持ち主。そんな著者の半生と、イスラエルと日本双方の社会の問題が鮮やかに描かれる。
絶えず「作戦」という名の「戦争」を行うイスラエル。旧約聖書の選民思想を土台に、子どもの時から「国のために死ぬのはすばらしい」と教えられ、占領した土地は「戻ってきた土地」、アラブ人とは「交渉できない」。パレスチナ人虐殺は「別の方法がない」と左派も言う。軍事予算増大の影で子どもの貧困が広がり、戦争以外の選択肢が隠される…。戦前と今の日本に、なんと似ていることか! さらに、イスラエルでの戦争後の官民挙げた「切り替わり」が、福島原発事故後の日本に重なると著者。
著者がイスラエルに疑問を抱いたのが2008年末のガザ攻撃。考え、気づき、日々行動することの普遍的価値を教えられた。(登)
- 昭和前期女性文学論
- 新・フェミニズム批評の会 編
- 翰林書房4200円
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激動の昭和前期に、日本の女性作家はどう生き、何を表現したのか―。林芙美子、森三千代など、知名度の高低にかかわらず、多数の作家について詩人や研究者など36人の女性が論じている。
多様な視点で探る論文の一つ一つが興味深いが、読み進めれば、女性作家たちの試みや、制約が強かった時代背景が見えてくる。言論統制の中で、国策に抵抗し続けた宮本百合子などもいるが、自立・自律的な新しい女性を描きながらも、戦争に協力的な文章を書いてしまう作家(吉屋信子ほか)も少なくなかった。
著者の一人長谷川啓は、田村俊子、佐多稲子、大田洋子を例に、彼女たちの女性解放思想や自己実現欲求までが帝国主義の女性活用の意向に重なり、国家戦略に絡め取られたと分析。そして現代との酷似を指摘する。
表現者を時代性で捉え直し、体系的に編まれた良書。「戦争のできる国へ」と進む今の危機的な状況に、著者たちの「今書いておかねば」の気概が感じられる。(う)
紛争・対立・暴力 世界の地域から考える
西崎文子・武内進一 編著
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- 紛争・対立・暴力 世界の地域から考える
- 西崎文子・武内進一 編著
- 岩波書店820円
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本書は、パリのシャルリ・エブド社への襲撃事件をきっかけに開かれた「亀裂の走る世界の中で―地域研究からの問い」と題する日本学術会議のシンポジウムをもとに編集された。
ヨーロッパ、アメリカ合衆国、アフリカ、ラテンアメリカ、東南アジア、中国、日本の地域研究者が、紛争や対立の現状や原因について分析する。欧州ではEU内の経済的格差と難民の流入による多文化共生の危機、米国ではヘイトクライムと進行する「監獄化社会」、アフリカでは植民地支配の歴史を背景に、人々を動員する道具に「民族」・「宗教」が利用されていること、そして日本では、関東大震災時の朝鮮人虐殺を、現代社会に生きるすべての人が教訓として覚えておくべき史実だと指摘する。それぞれ重い内容ではあるが、希望はあると著者らは言う。
ジュニア向けに平易な文章で書かれ、より深く知るための参考文献も掲載。世界の今を知るため、大人にも読んでもらいたい。(い)